正体不明の楽器「Venova」は、どのようにして生まれたのかあの会社のこの商品(1/4 ページ)

» 2018年08月27日 07時45分 公開
[大澤裕司ITmedia]

 リコーダーにしては曲がりくねっている。マウスピースにリードを1枚固定しているのでクラリネットかサクソフォンかと思いきや、似ても似つかない。このパッと見ただけでは正体が分からない楽器が現在、日本をはじめ海外でも売れている。

 正体不明のこの楽器は、ヤマハの「Venova(ヴェノーヴァ)」。新ジャンルの円筒形アコースティック管楽器で、同社では「カジュアル管楽器」と銘打って販売している。2017年4月に欧州で発売され、同年8月に日本でも発売。その独特なデザインは注目の的となり、日本では2017年にグッドデザイン賞を受賞したほどだ。

 「Venova」は管楽器の本格的な演奏感や表現力をより気軽に、より身近に楽しんでもらうために開発された。コンパクトなボディでリコーダーに似たやさしい指使いながら、「分岐管構造」によりサクソフォンなどの円錐形管楽器の音響特性を実現した。ABS樹脂製のため軽量で耐久性に優れるほか、メンテナンスも容易なことから、どこへでも気軽に持ち出せ、さまざまな場面で気軽に演奏を楽しむことができる。

カジュアル管楽器「Venova」

 ヤマハの分析によれば、管楽器の市場規模は国内外で年間1000万〜2000万本とのこと。最も普及しているのがリコーダーで、国内で安いものは1000円ほどで購入できる。一方、同じ管楽器のクラリネットは安くても7万円ほどで、サクソフォンは10万円ほどと高め。初心者には購入がためらわれる価格だ。

 「Venova」の開発が始まったのは2015年。企画を担当した中島洋氏(楽器事業本部B&O事業推進部B&O商品企画グループリーダー)は、「もっと多くの人に演奏してもらえるようになるには、リコーダーとクラリネットやサクソフォンの間の価格帯で提供できるものがほしかった」と、「Venova」の開発動機をこう明かす。

 理想としたのは、リコーダーの扱いやすさとメンテナンス性の良さを持ちながら、サクソフォンの音色が出せるもの。ただ、円筒管楽器のリコーダーに、円錐管楽器のサクソフォンならではの広がりを持った豊かな音色は実現できない。この問題を解決する策として採用することにしたのが、分岐管構造であった。

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