小林さんたちは水族館員であり、土産品作りに関しては素人だ。外部のプロに協力してもらう必要がある。2015年の秋に好機が訪れた。竹島水族館のある愛知県東三河地方で有力な金融機関である蒲郡信用金庫の鷹丘支店(愛知県豊橋市)が主催の経営者勉強会に、小林さんが講師として呼ばれたのだ。
勉強会参加者の1人であり、後に「超グソクムシ煎餅」のリアルな箱作りを担うことになる富田委千弘(いちひろ)さんは小林さんの第一印象を笑いながら振り返る。
「V字回復は僕たち経営者にとって憧れの言葉です。それを実現した小林さんに会いに行こうと思っていたら、『こちらから伺います』と鷹丘支店まで来てくれました。ジーパンとTシャツで茶髪の人が来て、最初は館長だとは思いませんでしたよ。でも、いろんな困難を乗り越えて竹島水族館を立て直したお話を聞いて、すごいなこの人! と刺激を受けました」
富田さんは80年の歴史を誇る箱秀紙器製作所の三代目社長で年齢は50歳。ダンボール箱からお菓子の化粧箱までを幅広く扱う「箱屋」としてのキャリアも長く、仕事人としての自信を深めているはずだ。そんな富田さんが初対面で「すごいな」と小林さんに尊敬の念を抱いたところから、「超グソクムシ煎餅」プロジェクトは始まった。
言いだしっぺは豊橋市内で和菓子店「童庵」を営む安藤チヒロさん(43歳)だった。勉強会の中で小林さんが「入館料収入だけでは限界がある」と本音をこぼしたのをキャッチして、独自の土産品開発を提案したのだ。
菓子は童庵、箱は箱秀が作成を請け負える。さらに、この勉強会のリーダーである堀本貞臣さんはデザイン部門も擁する会社の代表である。良い企画さえあれば、すぐにでもモノづくりができる体制が偶然に整っていた。
小林さんにはアイデアがあった。地元の漁師が持って来てくれる魚介類の中に、アナゴ漁の仕掛けに入ってしまうオオグソクムシがたくさんいる。何百匹もいるので全ては飼育できない。仕方なく、他の水族館に譲るなどしていた。「もったいない」と感じた飼育員の三田圭一さんが、オオグソクムシを試食した様子を発表して人気を集め始めていた時期でもある(関連記事を参照)。
「お客さんの中にも『私も食べてみたい』という人がいます。ならば、もう少し食べやすい形にして提供すればどうか、と思っていました」
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