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金魚すくいにテレビゲームが「仕事」? “虚業”化した障害者雇用をどう変える効率化へのインセンティブなき「異常」(1/5 ページ)

» 2018年12月14日 08時42分 公開
[今野大一ITmedia]

 12月7日、アデコ主催のセミナー「経済学からみる、『障がい者雇用』の効果と課題」が実施された。自身も脳性麻痺(まひ)の子どもを持ち、『新版 障害者の経済学』(東洋経済新報社)などの著作もある慶應義塾大学の中島隆信教授が、障害者雇用の問題点を指摘。生産性を上げれば上げるほど雇用率が達成できなくなる現行の制度に基づくビジネスモデルを批判した。中島教授の講演内容をお届けする。

phot なかじま・たかのぶ 慶應義塾大学商学部教授。1960年生まれ。慶應義塾大学大学院経済学研究科後期博士課程単位取得退学。博士(商学)。専門は応用経済学。著書に、『新版 障害者の経済学』『高校野球の経済学』『大相撲の経済学』(以上、東洋経済新報社)など著書多数

「失業率一致」目指すちぐはぐな政策目標

 障害者の法定雇用率は2018年4月から、国と地方自治体は2.3%から2.5%に、民間企業は2.0%から2.2%に引き上げられました。厚生労働省は障害者雇用率の基準を、「障害のある労働者数+障害のある失業者数」を「全ての労働者数+全ての失業者数」で割るという算式で設定しています。この算式の意味は、障害者の失業率を日本全体の失業率に一致させることを目標に法定雇用率が定められているということです。しかし、そもそも失業率から考える政策目標に対して、私は4つの点で望ましいものではないと考えています。

 まず第1に、障害者の雇用者数は統計によってバラバラなのです。厚労省の『障害者雇用実態調査』では63万1000人とされている一方、『障害者雇用状況』では40万9000人とされています。2点目に挙げられるのが、障害者の失業率自体が調査されていないことです。国の最も重要な統計調査である「国勢調査」でも調べられていないという実態があります。3点目として、そもそも障害のある人が職探しをしていないと「失業者」にならないということも挙げられます。完全失業者の定義は月末1週間で職探しをしていたか否かによるのです。

 4点目は、施設利用者が増えると失業率も下がる点です。日本は人口当たりの精神科病床数がダントツの世界一なので、失業率も下がる傾向にあるのです。

 そもそも、働きたい人の割合は障害のあるなしには関係ないはずです。だから私は失業率ではなく、働く意欲を持つ人の割合である「労働力率」を社会全体の数値と一致させることを政策目標にすべきだと考えています。

 法定雇用率未達成の企業から納付金を徴収し、それを達成企業に調整金として渡す「雇用納付金制度」も制度疲労を起こしています。もともと雇用納付金制度は、障害者を雇っている中小企業に補助金を渡そうという仕組みでした。正しいかどうかは別としても、「企業同士の助け合い」という意味でいえば、私は適切なシステムだったと思っています。しかし現状は、どうなっているか。実際には、経営的に決して楽とはいえない中小企業から納付金を集めて、ある程度余裕のあるはずの大企業にお金を回すというおかしな仕組みになっているのです。

phot 以下、全て資料は中島教授提供
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