そんな鈴木さんが18年後半に仕掛けたのが「手書きポップを描いてみよう」という企画展だ。手書きPOPとは、印字された解説板ではなく、鈴木さんを含む飼育員たちが画用紙に自由に描いて貼り出しているもの。手軽で安価だけに発想力や画力、知識量の差が露骨に出てしまう。面白くて中身のあるPOPの前には多くの人が集まって熱心に読んでいる。もはや竹島水族館の名物ともいえる。鈴木さんはその作成業務を客にも体験してもらうことを思い付いた。
実際の企画展を見に行った。館内の目立つ場所に、50枚を超える手書きPOPが貼り出されている。小学生から絵本作家に至るまでたくさんの応募があったという。それぞれが好きな生き物について愛情過剰な紹介をしていて圧倒される。企画担当の鈴木さんが「ユーモア賞」などと表彰し、コメントを添えているPOPもある。
客が喜び、飼育員はPOP作りの参考になり、客と水族館の距離感もさらに縮まる。竹島水族館ならではの一石三鳥の企画なのだ。
ただし、館内の掲示板やWebサイトでの告知だけで質が高い作品がたくさん集まったわけではない。鈴木さんは竹島水族館の公式Facebookでの「ぼやき」が功を奏したと明かす。「手書きPOPを募集したのに1枚も来てないです!」と素直に訴えた後で応募が急に増えたのだ。頑張っている新人飼育員を助けてあげたいと思った心優しい客もいたのだろう。
竹島水族館は飼育員が交代で頻繁にFacebookページを更新しており、投稿には毎回数百の「いいね!」がつく。展示している生き物の様子だけでなく、飼育員たちの業務や日常などを赤裸々に書いている投稿もあり、コメントには飼育員が返信をすることもある。この強力で親密なコミュニケーションツールが鈴木さんの企画をしっかりと支えた。
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