――阿部さんがアマゾン川のいかだ下りに挑戦した時は、マラリアにかかって生死の境をさまようなど、冒険にはトラブルがつきものです。今回の異常な豪雪はどう感じましたか。
阿部: とにかく理不尽だと思いましたよ。自然とはそういうものですが、歩いている最中も「何で今年それがぶち当たるんだよ」という気持ちでした。僕だけでなく他の外国の冒険家もみんなそう思っていたでしょう。それぞれ人生をかけていたのだから。それでも真っすぐ歩いて行かなくてはいけない、と思ったのです。
――今回の遠征では前半の悪天候で行程が遅れて食料の消費が激しく、当初目指していた「無補給」の方針を転換して食料補給を受けました。
阿部: 出発から31日目、ルートのチェックポイントに食料の備蓄庫があり、そこから補給を受けました。実はこのポイントに着く3日くらい前に、ベースキャンプから「食料を補給してはどうか」と打診がありました。
食料が無くなるということは自己責任です。クレバスに落ちるといった(突発的な)場合にはレスキューが要ります。でも、食料が切れるのはあくまで自分のマネジメントのミスなのです。補給の提案を受けた後はそのことばかり考えました。ストレスとプレッシャーで、疲れているのに不眠症になるほどでした。結局、補給を受ける前日に決断しました。
350キロ地点であるチェックポイントまでに31日間かかりましたが、このあたりで降雪が止まり、残りの550キロは22日間で踏破しました。積雪さえなければ予定通り無補給でいけたのでしょうが、天候に阻まれましたね。
――なぜこのような判断を下したのでしょうか。
阿部: 無補給は僕のやりたかったことで、自分を押し通すこともできた。ただ、チェックポイント直前であれだけ降っていたドカ雪がまた来たら、行けなかったでしょう。あの時は毎日雪が降っていたので、もう一度降らないという保証は無かったのです。
遠征中に僕は日記にこう記しています。「この雪が続くなら補給は絶対必要 頭の中で考える 絶対にやるべきは南極点」「無補給でやるのはただのイコジでしかない」。
無補給達成への未練や意地で、自分がすべきことを見失ってはいけないと思いました。補給をもらわなくても行ける状況に結果的にはなりましたが、たとえそれで行けたとしても無茶な判断でしかない。
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