このように、想像を超える原価高騰が収まらない状況を受けて、他の100円ショップでは業態メリットが薄くなっても、脱100円商品を増やすことにより、少しでも利益を確保しようと動いているのです。その結果が100円ショップの脱100円化という流れです。
回転寿司やコンビニコーヒーなどの100円を売りにしてきた業界や商品も、本来はそのままにしたかったのですが、やむを得ず、脱100円に動き始めたというのが本当のところです。
一方、別の見方をすれば「100円で買える」という価値観が支払い手段の変化によって薄らいできているのではないかとも私は見ています。
主な支払い手段は現金という時代が長く続いてきました。お札や硬貨を財布に入れて、現金で支払うことが当たり前でした。その時代には、100円という金額は「支払いやすい」「値ごろで買いやすい」「お得」という感覚がありました。100円ショップなどの100円業態、100円商品はそうしたことを背景に支持されました。
しかし、支払方法が電子マネーやクレカに代わり、現金で支払う比率が減ってきたことで、100円玉硬貨の利用価値は以前よりは低くなっているように感じる人は多いのではないでしょうか。
21年のキャッシュレス比率は32.5%でした。直近10年で18%以上増加しています。消費者が現金支払いをする頻度が徐々に減ってきていることがよく分かります。
そのため、「100円だから買う」ということに、以前ほどの価値を感じなくなっている消費者が増えているのも事実なのではないでしょうか。すべて「ピッ」とやるだけですので。
ただし、100円業態には、やはり圧倒的なお得感や分かりやすさがあります。そして、「こんなものまで100円!」という驚きの体験を私たちに提供してくれます。
300円でも500円でもだめで、やはり100円というシンプルな数字に価値があるのも事実です。
今、米国ではダラーストア(1ドルショップ)が人気です。100円ショップのような業態として、昔から米国では認知されています。ショッピングセンターにも必ず1店舗は出店しています。
22年に入りダラーストアの人気が高まっていて、22年5月の客数は前年に比べて10.4%増加しています(Placer.ai調べ、参照記事)
ダラーストアでの高額所得者の消費がここにきて33%増加しているというデータもあり、米国の消費者物価の記録的な上昇が消費に与えている影響が見て取れます。
米国のような10%近い消費者物価上昇まではいかずとも、今のような物価高が続けば、日本でもあらためて100円ショップや100円業態の存在意義が見直されるでしょう。
今後、脱100円に動く企業は多いと思いますし、電子マネーでますます現金の価値がなくなっていくかもしれません。しかし、100円業態や100円商品にはぜひこだわって、残していってほしいと願います。
誰にとっても分かりやすく、買いやすい究極の業態。
それが100円業態、100円商品です。
100円にこだわることが、また新たな業態やサービスを生むヒントになるはずです。
岩崎 剛幸(いわさき たけゆき)
ムガマエ株式会社 代表取締役社長/経営コンサルタント
1969年、静岡市生まれ。船井総合研究所にて28年間、上席コンサルタントとして従事したのち、同社創業。流通小売・サービス業界のコンサルティングのスペシャリスト。「面白い会社をつくる」をコンセプトに各業界でNo.1の成長率を誇る新業態店や専門店を数多く輩出させている。街歩きと店舗視察による消費トレンド分析と予測に定評があり、最近ではテレビ、ラジオ、新聞、雑誌でのコメンテーターとしての出演も数多い。
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