市場を混乱させる「希望の党」の公約:“いま”が分かるビジネス塾(2/3 ページ)
10月22日投開票の解散総選挙はいよいよ後半戦に入った。与党有利と伝えられているが、選挙はフタを開けてみるまで分からない。今回の選挙では、希望の党がこれまでにない経済政策を打ち出したことで、結果によっては経済やビジネス環境が大きく変わる可能性が出てきた。選挙がどのような影響を及ぼすのか探った。
希望の党の公約は非現実的
これまで何とか低金利を維持することができたのは、日銀が大量に国債を買い入れていることに加え、消費税の税収を社会保障費に充当すると与野党が合意したことによって、市場に安心感を与えてきたからである。
だが自民党は今回の選挙でこの方針を撤回し、増税分は教育の無償化に割り当てることになった。教育の無償化はそれなりに意義のある政策かもしれないが、消費税収の使途に関する制限が取り払われたことのインパクトは大きい。今後、市場では金利上昇を警戒する声が高まってくるだろう。
希望の党は、増税そのものを否定しているので、自民党が政権を維持した場合よりも、財政に対する懸念が高まるのは確実であり、金利上昇リスクもさらに増大することになる。
これに加えて希望の党は、今回の選挙で驚くべき政策を提示した。それは、企業の内部留保に対する課税とベーシックインカムの導入である。どちらの政策も実現にはかなりの困難が伴うものだが、もし希望の党が政権を獲得し、何らかの形でこれらの政策が導入されることになった場合、企業活動への影響は計り知れない。
まず内部留保への課税だが、希望の党では、企業の内部留保に対して2〜3%程度課税することを考えているようである。財務を理解している人なら分かると思うが、企業の内部留保とはあくまで会計上のものであり、実際にその額の現金があるわけではない。
16年3月末時点における日本企業(金融保険業を除く)の内部留保は約406兆円だが、現預金は約半分の211兆円しかない。残りは設備投資などの資産に変わっているので、税金をかけてもすぐに徴収できる状況ではない。
中小企業も含めた全企業の内部留保に課税するのは非現実的なので、仮に資本金1億円以上の大手企業に限定すると、内部留保は255兆円となり、現預金は89兆円とさらに小さい額になってしまう。
ここに3%の税金をかければ2.7兆円の税収となるが、現在の法人税の税収は約12兆円、消費税の税収は17兆円なので、財源としては全く足りない。かといって、これより高い税金をかけるのは非現実的であり、また、内部留保全体に課税すれば企業は資産売却を迫られるので、市場は大混乱に陥る可能性もある。
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