欧州発デスクトップLinuxブームの波に乗るベンダー欧州オープンソース動向第2回

欧州OSSに関わるキーパーソンに取材を行い、欧州におけるOSSの現状や人気の秘密、課題を探る同特集。今回は、サンとMandrakesoftのLinuxビジネスの取り組みからデスクトップLinuxの意義を考えてみよう。

» 2004年11月24日 11時24分 公開
[末岡洋子,ITmedia]

デスクトップで好機到来、Sun

 Sun Microsystemsが当時リリース間もないデスクトップLinuxの「Java Desktop System(JDS)」で英国調達省(OGC)と「MOU」(memorandum of understanding)と呼ばれる一種の紳士協定を結び、特別価格で提供されたJDSの試験導入を開始することになったという2003年12月のニュースは大きな話題となった。

 英Sunで政府およびパブリックポリシーの責任者を務めるリチャード・バーリントン氏は、昨年まで3年間、英国政府の実施する民間企業との情報交換プログラムに派遣されていたなど、政府の動きに通じている人物だ。バーリントン氏によると、現在300〜400万台ある英政府のデスクトップPCの95%以上を占めるOSがMicrosoftのWindowsだが、「5年後には80%に縮小するだろう」と予言する。「政府はもっと縮小させたいようだ」とバーリントン氏は続ける。

 単一組織の雇用数では欧州最大といわれる英国民健康保険(NHS)は9月、5000台のJDSライセンスをSunより購入したと発表している。NHSでは今年、デスクトップPCで3年前に締結したMicrosoftとの契約が終了することから、現在動向が注目されている。

 SUSEベースのJDSでMicrosoftの市場を狙うSunにとって、滑り出しは好調のようだ。バーリントン氏は正式な名前は発表できないが多くのプロジェクトや案件を抱えているという。加えて同氏は、政府の採用を「安全性、モノカルチャーからの脱却、選択肢の3つを求めた結果」と明確に説明する。

 JDSの差別化としては、コスト削減も分かりやすい大きなメリットとなっている。「MicrosoftのOfficeと同等のアプリケーションを75%安く提供できる。保守もオプション。オープンソースだから自分たちで保守できるし、Sunがサポートを提供することもできる」。このような選択の自由がOSSの長所とバーリントン氏はいう。「政府は納税者である市民に真の価値を与える義務がある。ITに割く予算比は年々膨れ上がっている。Microsoftの“ライセンス”という名目の下に、多額の税金が米国に流れることが果たしてよいことなのだろうか?」

(Sunも米国企業だが……と聞くと、「Sunは地域経済にコミットしている。Microsoftは英国で2000人を雇っているのに対し、われわれは4000人、インターンも年間200人採用している。研究開発拠点もある」とのことだった)

「ライバルはMicrosoft」とMandrakesoft

 SunのLinux参入は比較的最近だが、仏Mandrakesoftは古参のLinuxディストリビューターだ。この春に破産法の保護から脱出したばかりの同社の本社は、パリの中心部、アパレル問屋や卸業者が並ぶ地区にある。こんなところにソフトウェア会社が? と思ってしまうような何のプレートも出ていないビルの中に入り、荷物運搬用のエレベータに乗る。4階、エレベータの扉が開くといきなりオフィスだ。

「3〜4%の企業しか立ち直れないというから、奇跡的だった」とCEOのフランソワ・バンシロン氏はここ2年の苦境を振り返る。2000年をピークとするITバブルは欧州でも起こっており、1998年創業の同社もそのアップ・ダウンを経験した。OSSを事業とする企業はビジネスモデルが問題となることが多いが(関連記事参照)、同社の場合、ビジネスモデルを確立する前にITバブルが崩壊、その余波を受けた。同社が破産申請をしたのは2003年1月。1年2カ月で見事にカムバックを果たせたのは、コスト削減と企業分野へのフォーカスなどが功を奏したためという。

 同社は先日、仏設備省のWindows NTからの移行計画を獲得し、約1500台のサーバを同社の「Mandrakelinux Corporate Server」に置き換えるプロジェクトを進める。このほか、外務省や農務省など親OSS派のフランス各政府機関や企業で多数のプロジェクトが進んでいるという。9月には、仏国防省の支援を受け、同社OSをベースとしたセキュリティ評価基準「CC-EAL5」(Common Criteria Evaluation Assurance Level 5)を満たすLinuxの開発を行うことも決定している(関連記事参照)

 同社の現在のビジネスモデルについて聞いてみた。現在の製品ラインナップは、旗艦製品である個人ユーザー向けLinuxディストリビューションの「Mandrakelinux」、エンタープライズ版の「Mandrakelinux Corporate Server/Desktop」など。製品は多数の商用アプリケーションをパッケージ化した有償版と無償のダウンロード提供を平行して行っており、現在収益の90%をこれらの製品販売から得ている。同じLinuxディストリビューターのRed Hatは、無償版のディストリビューションを停止し、Fedora Projectとして分けたが、Mandrakeは無償版から手を引くことはないと両氏は言う。

「有償版を購入するユーザーは、1.5%しかいない。だが、有償版にわれわれの手がかかっている部分も1.5%しかないとすれば、同じことだ」とバンシロン氏は言う。同社自身が手がける開発作業はコアの部分だけだからだ。今後は、企業分野へのフォーカスに合わせ、オンラインでのサポートサービス事業を拡充していく。同社は一般ユーザー向けの「Mandrake Linux Users Club」に加え、この7月に企業向けオンラインサポート「Mandrakeonline」もスタートさせている。ここでは、セキュリティアップデートなどのサービスを提供する。

「OSSはさまざまなビジネスモデルが成立しうる。(無償ダウンロードなし、サブスクリプションモデルの)Red HatやSUSE(Novell)、(サービスから収益を得る)JBoss、それに、(収益の9割を製品販売から得ている)弊社、どれ1つとして同じビジネスモデルはない。でもそのような多様性が許されるのがOSSの魅力でもある」(バンシロン氏)。

 25歳の時にインターネット上で出会い、“一般ユーザーが使いやすいLinuxディストリビューションを作ろう”と意気投合した2人とMandrakesoftを創業した(3人の初顔合わせは創業の時に実現した)共同設立者のゲール・デュバル氏は、「ライバルはMicrosoft」と言い切る。競合優位性は、コミュニティの要素だ。開発過程に複数の人が加わることにより、技術が磨かれる。また、ソースコードが開示されているため、修正・改善もできる。「オープンソースは信頼性、堅牢性、安全性の面で優れている」とデュバル氏は自信を見せる。加えて同氏は、同じくオープンソースでビジネスを行うRed HatやNovellについて、「Red Hatはライバルというよりも、共同でOSSを推進する同志。Novell SuSEはドイツ中心で市場が異なる」と分析する。

 設立当初の“一般ユーザーにLinuxを”という目標の達成見通しはどうなのだろう? 「使い勝手、機能などの面はもはや短所ではなくなってきた。後は意識の問題」とバンシロン氏は言う。「デスクトップLinuxは確実な流れだ」(バンシロン氏)。デュバル氏は「Linux上で利用できるアプリケーションの数がWindowsベースを上回ったときが、Linuxがメインストリームとなるとき」と予想する。

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