総論2:SEの生命線は顧客満足思考ユニクロの業務改革に見る(1/3 ページ)

SEには常に顧客満足を目指す「心」が要求される。経営戦略をブレークダウンしたユニクロのシステム構築は1つの参考になりそうだ。日々の仕事に忙殺されるSEほど、一度振り返る必要があるのかもしれない。(特集:顧客満足度ナンバーワンSEの条件)

» 2005年04月26日 17時42分 公開
[怒賀新也,ITmedia]

 先日、.NET環境で金融系基幹システムを開発しているという若手プログラマーと話す機会があり、印象的な言葉を聞いた。それは、「エンジニアの世界では技術力がすべてである」という当たり前と言えば当たり前の話。彼によれば、エンジニアの世界では、部下はとにかく技術力の高い人についていく傾向があるという。逆に、「技術力がない」と思われた瞬間、相手にされなくなってしまうというのだ。

技術力とは何か

 エンジニアとして働いている限り、「技術力がない」は「存在価値がない」とイコールになることもある。真面目な人ほど、ストイックなまでに技術力を求めるだろう。筆者もかつてシステム開発に携わったが、当時確かに技術の習得には熱心だった。それが自分の存在価値を左右するものだったからだ。

 だが、ここで、1つのテーマが持ち上がる。かく言う「技術力」とはいったい何かという点だ。プログラマーとSE、ITコンサルタント、また最近ではアーキテクトと分類される役割もあり、それぞれ意味が異なるが、ここでは長年親しまれた言葉に敬意を表し、「SE」の意味を最大限に広くとることにする。そのSEの技術力とは、一般に、プログラム言語や、UMLなどの新たな設計手法の理解など、技術的な面に焦点が当てられることが多い。

 一方で、同様に重要なのは、たとえどんな状況になったとしても、常に「顧客満足」という目的を頭に置いて、システムを眺めるマインドを持ち続けることではないか。

 数年前に、ある大手半導体製造メーカーのグローバルSCM(サプライチェーンマネジメント)導入プロジェクトにおいて、1つの「事件」があった。同プロジェクトは、顧客企業と、ITコンサルタントおよびソフトウェアベンダーの技術者など、総勢300人がワンフロアに集う巨大プロジェクトだった。米国、インドなどからもメンバーが集まり、プロジェクト拠点は首都圏にあったにも関わらず、「公用語」は英語という異空間だ。

 事件の顛末はこうだ。サプライチェーンを最適化するためのシステム導入において、データベースと、SCMの計画系エンジンを連携させる必要があった。両システム間をつなぐために、このプロジェクトでは、要件が上がるたびに、その都度、スクリプトと呼ばれるインタフェース(連携)プログラムを書いていた。

 これ自体は特に珍しくはない。だが、スクリプトは日を追うごとに増え、20本になり、30本になり、最後はなんと200本にまで増加した。こんなことなら、始めからEAI(Enterprise Application Integration)ツールを導入すれば、すっきりとしたシステム間接続を実現できたのではないかという状況だ。200本のインタフェースといういわゆるスパゲッティシステムにしてしまっては、その場はなんとか稼動しても、将来的な拡張に対応することは難しい。

 さらに、このシステム間連携スクリプトのある1本に、致命的なバグが含まれていることが分かった。このスクリプトを書いたのは、1人の米国人男性。ここでは仮に、ロバートと呼ぶ。同スクリプトは、「ロバートスクリプト」と名づけられ、遅延していたプロジェクトの諸悪の根源であるかのように、一瞬でその名がプロジェクト中を駆け抜けた。そして数日後、なんとロバートは解雇されてしまったのである。

初期設計の重要さ

 この話で、悪いのは本当にロバートだけなのか?

 スクリプトが30本になったときに、それを全部捨ててでも、EAIを導入するという判断をだれかができなかったのか。そもそも、インタフェースに必要なスクリプトの数くらい、事前に見積もりが取れていなかったのか。

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