経産省、政府調達におけるオープンソースの現状を紹介

LinuxWorld Expo/Tokyo 2005の開幕特別記念講演では、経産省の牧内勝哉氏が「電子政府構築計画とLinux」と題した講演を行った。結局のところ、オープンソースは省庁からどのようにとらえられているのだろうか。

» 2005年06月02日 02時47分 公開
[西尾泰三,ITmedia]

 6月1日から3日間の日程で開催されているLinuxWorld Expo/Tokyo 2005。その開幕特別記念講演では、経済産業省(経産省)から商務情報政策局情報プロジェクト室長の牧内勝哉氏が「電子政府構築計画とLinux」と題した講演を行った。2年前のLinuxWorldでは、同じく経産省の久米孝氏が「経済産業省、そして政府としてはオープンソースへ多大な期待を寄せている」と語ったが(関連記事)、それがこの2年でどのように変わったのかを確かめるべく多くの人が集まった。

牧内氏 「電子政府はリフォームの時期」と経産省の牧内氏

 冒頭、牧内氏は経産省に異なる意見を持つ2種類の情報化部門があることを説明した。競争力のある産業や世界を変える可能性がある技術・製品を生む政策を考える情報政策部門と、スリムな行政やレベルの高い行政サービスについて考える情報システム部門が存在するという。「前者が営業で後者がシステム部門のような感じ」(牧内氏)と話すように、オープンソース・ソフトウェア(OSS)に関する政策についてもこの2つの部門は相反する意見を持っており、牧内氏はこの2つの部門の接点となるべく動いているという。

 「情報政策部門はOSSは国がドライブして開発を促進することが重要、といった感じで話し、情報システム部門は『OSSを導入するか否かは十分な検討が必要』と現状を語る。議論がかみ合わない」(牧内氏)

 そして、e-Japan戦略で進められている電子政府の話へと移るが、牧内氏は「電子政府などの公共的なシステムの構築にあたってはOSS技術を積極的に使うべきか」と問題提起し、続けて「公開競争入札という調達システム下では、最適な技術が最低の価格で導入されるため、OSS技術や製品が成熟レベルに達しているのであれば自然と導入事例は増える」と話す。しかし、この問いと答えの間にはさまざまなせめぎ合いがあるのだと現状を解説する。

 今年度はe-Japan戦略のデッドラインとなる年だが、牧村氏は、電子政府・電子自治体に関しては第2段階にあると話す。現在求められているのはレガシーシステムへの対応であるという。

 この「レガシーシステム」の定義だが、電子政府構築計画では、「毎年10億円以上の経費を使う中央官庁の情報システム」で、加えて次のいずれかを満たすものとなっている。

  • 汎用コンピューターおよびオフコンを利用したシステムおよびこれに接続するためのシステム
  • 1994年度以降随意契約が継続しているシステム

 こうしたレガシーシステムが現在どれだけ存在しているかというと、「社会保険オンラインシステム」「登記情報システム」「国税総合管理システム」「特許事務システム」など36システムに及ぶ。いずれも非常に巨大でかつ代替できない業務であり、部門ごとに開発を積み重ねてきたものである。その上、当時開発を担当した人間が現在どこにいるのか分からないことも珍しくないという組織・人事ポリシーの問題もこのシステムをさらにややこしいものとしている。

 驚くべきは、これら36システムの平成16年度予算は約3960億円で、全電子政府関連予算の70%以上にもなることだ。この部分の改革が急務であり、現在は刷新可能性を調べるとともに、最適化計画の策定が進められている。

 そうした最適化計画については、CIO補佐官などの導入に代表される民間手法の活用や、PDCA(Plan Do Check Action)サイクルやEA(Enterprise Architecture)による最適化手法を取り入れているという。すでに、府省の共通システム・業務については洗い出されており、2005年5月の時点で、最適化計画11件、見直し方針25件が策定されている。そして、最適化の成果として、人事・給与系のシステムでは経費が20億円の削減、時間は1300万時間もの削減が、また、会計手続きのシステムでは実に325億円、55万日もの削減が見込まれるという。

 こうしたシステムにOSSが採用されるかについては、冒頭のとおり、基本的には良くて低コストなものが選ばれるが、随意契約の是非など、仕様書の策定のプロセスや調達の方法に関して考えるべきことも数多く残っていると話す。

 加えて、「キヤノンなどのベンダーはどこの国でも知名度があるが、ではNTTデータのようなソリューションベンダーはどうか。われわれがぬかった部分もあるが、こうしたソリューションビジネスにおいて国際競争力を強化できるような政策を推進すべきと考えている」と牧内氏は話し、そのために、政府が(OSSを)調達することで戦略的に技術開発を牽引すべきという声があることも示し、情報政策部門の観点からの考えも紹介した。

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