中小建設業、電子納入に向けた最大の課題は「PCの汎用スキル」

マイクロソフトと全国建設産業団体連合会は1月10日、都内にて「CALS/EC Windowsスキルチェックセミナー」を開催した。中小建設業のPCスキル向上を支援するのが狙いだ。

» 2006年01月10日 19時48分 公開
[高橋睦美,ITmedia]

 マイクロソフトと社団法人全国建設産業団体連合会(全国建産連)は1月10日、都内にて「CALS/EC Windowsスキルチェックセミナー」を開催した。

 このセミナーは、中小規模の建設業者を対象に、電子納品をはじめとするさまざまな業務をPCで行うための基本的なスキル向上を支援し、IT化を促すことを目的としたもの(関連記事)。地方を中心に全国各地で100回余り開催されており、都内での開催はこれが初めてだ。

 建設業界では、公共事業全体の電子化を目指したCALS/EC(公共事業支援統合情報システム)の導入/普及に向けた動きが進んでいる。その柱の1つが電子入札であり、電子納入だ。

 電子納入では、従来は紙でやり取りしてきた受注書や工事情報、施工中の経過を示す写真などを電子化し、メールや情報共有システムを通じてやり取りする。既に国土交通省や都道府県レベルの大規模案件で始まりつつあり、2006年から2008年にかけて市町村レベルにも広がり、2010年度には地方自治体でもすべての公共工事の入札・納品業務が電子化される見込みだ。

 しかし、電子納入を実施する際の課題も浮上してきた。1つは、業界全体の構造的な問題だ。全国に約55万社あるという建設業者のうち、大手はわずか0.6%の3300社ほど。残る9割以上は中堅・中小企業だが、この2つの層にはリソースにしてもITに関する理解度にしても大きなギャップがある。

 中小建設業の場合、現場レベルでの理解や発注機関との連携もさることながら、電子納入以前の最大の課題がある。「ファイルワークのほか、ネットワークやセキュリティ、ウイルス対策といったPCの汎用スキルが全社レベルで低いこと」(マイクロソフトのゼネラルビジネス本部新規ビジネス開発部、地場中小建設業担当課長の三村嘉徳氏)。PCの導入状況が1人1台どころか1社に1台だったり、いまだにWindows 95や98マシンが現役で動いている環境も珍しくないという。

 逆に、目的を取り違えた「IT化」による弊害も見られる。電子入札/納品のためにCALS/EC対応ソフトウェアさえ導入していればいいという思い込みがあったり、業務プロセスの見直しや日々の電子データの管理といった部分をすっ飛ばして「データをCD-Rに焼けばいい」というところだけに目が行った結果、使いこなせないシステムに無駄な投資を行ってしまったケースもあるということだ。

 三村氏はこうした状況を「教習所がないままにいきなりスタートし、走り出してしまったようなもの」とたとえる。セミナーは、建設業を対象としたPCスキルの教習所という位置付けだ。紙文書の整理には長けているという建設業界の担当者が、HDDでも同じようにファイル管理を行えるよう、基本的な操作方法などを解説していく。

セミナーの模様 セミナーには国土交通省、東京建設業協会などから35名ほどが参加した

 実際のセミナーでは、拡張子の表示やWindowsエクスプローラの表示設定、デスクトップの整理整頓といったWindows OSの基本設定から、ファイル/フォルダ操作、ファイルの管理方法、さらにネットワーク上の共有フォルダやプリンタの利用、納品用CD-Rの作成といった項目が解説される。ごく基本的な操作が中心だが、パスワードの設定やウイルス対策ソフトの利用といったセキュリティに関連する内容も盛り込まれている。

 ただし「このセミナーの目的は、PCの操作講習やIT講習ではない。実際の業務をPCでどのようにやっていくかの講習」(三村氏)。電子入札/納品体制への移行当初は作業負担が増えるのは事実。しかし、建設業界全体のITに対する意識改革やリテラシーの向上により、さまざまなメリットが生まれるとしている。

 今後は、この試みを広げる「スピード」が課題という。全国津々浦々、数十万という数の中小建設業者に講習を行うとなると、いくら人手と時間があっても足りない。そこで、全国建産連および教育パートナーと連携してセミナーを全国展開していく方針だ。現在、マイクロソフト認定の教育機関「Microsoft Official Training School」(MOTS)パートナーの27社がこのセミナーに協力しているが、2〜3年後には200社にまで拡大していきたいとしている。

 「地場のパートナー企業が地場の企業を支えるという体制を目指したい」(三村氏)

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