「生きている人体」から構築された人体モデルが産学連携で開発

日本SGIと慈恵医大が産学連携で三次元、四次元人体モデルデータを医学研究・教育用コンテンツとして販売・提供する。心臓の鼓動や骨格の動きも忠実に再現可能な定量的四次元モデルとして実践的な臨床にも貢献しそうだ。

» 2006年03月27日 16時38分 公開
[西尾泰三,ITmedia]

 日本SGIと東京慈恵会医科大学高次元医用画像工学研究所は3月27日、高度な三次元、四次元人体モデルデータを医学研究・教育用コンテンツとして販売・提供することを発表した。

 高次元医用画像工学研究所では、三次元画像生成や四次元画像技術およびこれをVR(バーチャルリアリティ)技術と結合することによる新たな治療技術の開発をテーマに、医学の広い分野にわたる研究を行っている。特に、さまざまなデータに基づき三次元、四次元モデルを生成するデータフュージョン技術や、患者を手術する前に仮想空間で最適な手術方法を見つけ出すバーチャルサージェリー(仮想手術)技術の研究で知られている。

 「日本SGIは産学連携を昔から行ってきており、今回の発表も3年前からの共同研究の成果」と話すのは、日本SGI代表取締役社長兼CEOの和泉法夫氏。同社は高次元医用画像工学研究所とともに、先端的なVR技術を応用し、人体の高度な医用画像データ処理およびモデリングに関する共同研究を推進していた。

「厳密な著作権管理の下、いずれはASPなどの提供形態も」と和泉氏

 そして今回発表されたのは、高精細な三次元、四次元の人体サーフェスモデルデータ。人体モデルは20才代日本人女性の骨格系、心血管系、内臓系に大別される数百のパーツからなる三次元構造を持つだけでなく、心臓の脈打つ様子や骨格の動く様子を、仮想空間上で忠実に再現できる定量的四次元モデルとして機能する。


 「定量的でかつ『生きている人体』から作成されたモデルであることが非常に意義がある」と話すのは、東京慈恵会医科大学高次元医用画像工学研究所所長の鈴木直樹氏。人体モデルの可視化自体は、2002年7月の「Visible Human Project」などですでに実現されているが、これは遺体を用いていた。今回は健全な人体からモデルが構築されている点で大きく異なるが、これは、モデル製作のために開発されたMRI(磁気共鳴画像)計測技術のほか、複数の撮像法を用い、それを合成することで実現している。

モニタ上に映し出された人体モデルに解説を加える鈴木氏

 医療分野におけるSGIの取り組みは今回の事例だけではない。上述の「Visible Human Project」にもSGIが関係しているほか、近年では、大英博物館で展示されている3000年前のミイラを可視化したり(今秋にも日本で公開予定)、2000年前の子供のミイラを可視化した「Digital Mummy Project」などが挙げられる。

 今回の発表は、日本SGIが提唱するコンテンツ・ライフサイクル・マネジメントを実現するソリューション体系「SiliconLIVE!」のコンセプトに基づいた展開が予想される。同社は今後、著作権管理やビューワの開発などの技術支援と販売を担当していく。

 手術のシミュレーションをはじめ、実践的な臨床に用いることが可能なため、まずは医学研究や教育分野にフォーカスした販売が行われる予定。料金としては1体1年間で95万円とされている。

 和泉氏は、「教育現場ではまずは高校が対象となるが、いずれは中学校、小学校も対象となってくるだろう」と話す。理科準備室においてある人体模型などと比べるとはるかに高価であることについては、各部位ごとにメタデータを加味させた検索性・利便性による学習効果や、ASPで提供する予定などを披露し、十分に効果も高く、かつ予算内に収まるものを提供すると意欲を見せた。

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