市役所にコンシェルジュが登場する? 横須賀市が切り開く電子行政システムの未来激変! 地方自治体の現実(1/4 ページ)

電子行政システム全般において先駆的な取り組みを続ける横須賀市。同市は「べんり市役所推進計画」という3カ年計画の下、新たな電子行政サービスの新境地を切り開こうとしている。

» 2006年04月28日 10時09分 公開
[中村文雄,ITmedia]

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 横須賀市の電子入札システムは世界的に高い評価を受けており、2004年5月、世界情報サービス産業機構の「IT賞」を受賞した。横須賀市は、電子入札システムだけでなく電子行政システム全般において先駆的な取り組みを続けており、現在、「べんり市役所推進計画」という3カ年計画の下、フロントオフィス系システムの拡充によって新たな電子行政サービスの新境地を切り開こうとしている。べんり市役所推進計画を立案した企画調整部情報政策課の森山武課長に話を聞いた。

森山氏 横須賀市企画調整部情報政策課の森山武課長

ITmedia 横須賀市の電子自治体への取り組みについて概略をお聞かせください。

森山 横須賀市は過去10年間、情報化を積極的に推進してきました。バックオフィス系システムから進めてきて、庁内ネットワーク、統合業務システム(文書管理、財務会計、電子決裁)、統合GIS、災害情報ネットワークを構築し、2005年にはレガシーシステムからのクライアント・サーバシステム(Webシステム)への移行も完了しました。バックオフィス系システムをほぼ完了したところで、コールセンターなどのフロントオフィス系のシステム構築に入ったところです。ホームページで行政情報を提供しており、月間累計700万人以上にご利用いただいています。2001年には電子入札システムの導入を行い、入札手続きを95%以上電子化しました。

ITmedia 電子入札システムにおいて高い評価を得ていますが、どのようなシステムを構築したのですか。

森山 横須賀市の電子入札システムは、業者登録、入札申し込み、札入れ、結果表示もすべて電子化(ホームページによる掲示)されています。外部の方からは、電子入札を導入すると「契約事務の透明化」「入札金額の適正化」が実現すると思われていますが、そうではありません。わたしたちが電子入札システムを導入したのは2001年でしたが、すでに1998年から平均落札率は落ちていました。電子入札システムを入れる前に入札制度改革を行うことで落札率が下がっていたのです。

ITmedia 電子入札システムではなく、入札の制度改革によって効果が出たわけですね。

森山 契約課が先導し、入札方法を指名競争入札から条件付き一般競争入札に改め、平均入札申し込み事業者数の増加を図る改革を行いました。指名競争入札を続けていたら電子入札システムを導入しても落札率は下がりません。条件付き一般競争入札にしたからこそ、落札率が下がったのです。それ以前は、落札率が98%という状態でした。

ITmedia そうすると電子入札システムを導入するメリットはどこにあるのですか。

森山 電子入札システムでなくても、手作業や郵便入札を利用することで公正を期すことができます。ただし、条件付き一般競争入札にして参加業者数が今までの3倍になったからといって、契約課の担当職員は増やせません。増大した事務作業の省力化のために、どうしてもコンピュータによる自動化が必要だったのです。

ITmedia どのようなプロセスで制度改革を実行して、電子入札システムを導入したのですか。

森山 第1ステップとして役所の主観ではなく、第三者的指標で業者を評価するシステムを導入しました。第2ステップは範囲拡大して、効率化するために電子入札システムを構築しました。第3ステップは競争と品質の両立をするために、制度改革の詳細を詰めたのです。

ITmedia どの段階でシステム構築を担当する情報政策課が参加したのですか。

森山 主要な制度改革を契約課で行った後、“第2のBPR(Business Process Reengineering)”をしたのが情報政策課です。システム構築するためには、これまでの手処理では幾通りの手順があったことを一本化しなければなりません。誰でも使えるシステムとするためには、クリックするボタンは1個、打ち込むのは数字だけという画面設計にする必要があるのです。そのためには今まであった手順を徹底的に整理する必要があります。それは主管している部署ではできませんから、わたしたち情報政策課の担当者が行います。

ITmedia そのような業務はITコンサルタントなどに任せるわけにはいかないのですか。

森山 通常、ITコンサルタントなどプロが作るシステムは、冗長性確保などの観点から、1つのことを処理するのに数本のルートを設けます。わたしたちが設計するシステムは、利用者の操作性を勘案し、1本のルートしか設定しません。そのBPRは普通のITコンサルタントではできません。そもそもの制度改正は契約課しかできませんし、契約事務のBPRは市役所の業務知識があり、ITシステムに通じた、わたしたち情報政策課しかできないのです。

ITmedia 情報政策課の方はどのようにBPRを進めていくのですか。

森山 設計段階で1本のルートを設ける際に、業務担当者と一緒に1つひとつの手順を「これは法律で決まった手順なのか?」「ただの慣例ではないのか?」とチェックしていきます。業務担当者は今のやり方を変えたがりません。二言目には「法律で決まっているから」と反論しますが、調べてみると単に慣例であるケースもあります。

ITmedia ほかの自治体でも横須賀市のように電子入札システムを導入すれば成功するのでしょうか。

森山 そうではないと思います。自治体の規模、位置などの違いによる地域性があることを考慮すべきです。東京から近い横須賀市なら、入札条件を緩和すれば、多くの業者が参加して効果が期待できますが、周辺に業者が少ない地域であれば制度改正を行っても効果があるとは限りません。

ITmedia 横須賀市の電子入札システムには公証局があり、ほかの自治体と共有しているそうですね。

森山 わたしたちが構築した電子入札システムは、認証局、公証局、入札処理アプリケーションの3つから成っています。もともと郵便入札では契約課に入札書類を直接送るのではなくて郵便局留めで送付していました。郵便局は書類の改ざんなどの不正がないこと、それから書類の到着時間を証明していました。そのシステムをそっくり電子化したのが公証局です。情報政策課のサーバで処理しており、契約課が絶対に操作できない保証をしています。この公証局を同じような規模と地域背景がある自治体と共同運用しています。

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