市役所にコンシェルジュが登場する? 横須賀市が切り開く電子行政システムの未来激変! 地方自治体の現実(2/4 ページ)

» 2006年04月28日 10時09分 公開
[中村文雄,ITmedia]

「べんり市役所推進計画」は市民ナビゲーションシステム

ITmedia 電子入札システムの導入が完了し、次に「べんり市役所推進計画」を立案された。その経緯についてお聞かせください。

森山 「べんり市役所推進計画」は、バックオフィス系からフロントオフィス系へシフトする宣言です。つまり、IT市役所の最後の仕上げが、「べんり市役所推進計画」です。2005年度から3カ年計画で進めており、コールセンターの設置が完了したところです。べんり市役所推進の4つの事業をは以下のとおりです。

1.横須賀市コールセンターの設置

2.市役所窓口の改善

3.インターネットによる市役所サービスの充実

4.市民ニーズに応じた市役所サービスの実現

 これら4つに共通するのは、市民のためのナビゲーションシステム、ということです。1のコールセンターは電話によるナビゲーション、2はワンストップ窓口を実現すること、3は電子申請システムを拡充すること、4は市民から公聴してニーズに沿った新サービスを立ち上げることです。

ITmedia 第1にコールセンター開設を取り上げた理由は何でしょうか。

森山 市役所サービスに関するアンケート調査の結果、問い合わせ方法として「市役所を訪問した」が60%、「電話をかけた」が33%でした。この結果から、市民のニーズに応えるためには、電話での対応を充実させることだと考えてコールセンターの設置を企画したのです。

ITmedia ホームページなどから情報を入手するという方法もありますよね。

森山 自分でインターネットを使える人はインターネットで検索して情報を得てもらえばよいのですが、それではインターネットでアクセスできない人に不親切です。コールセンター担当者が、図書館の司書のようにデータベースやインターネットを検索して結果を読み上げてくれれば、電話するだけで情報を得られます。市役所がIT化すればするほど、市民は簡単な方法で情報にアクセスできるはずなのです。

ITmedia 朝7時からコールセンターを開始する必要があったのですか。

森山 市役所では、朝7時過ぎごろから、ゴミ処理の担当部署の電話が鳴っています。横須賀市では朝の8時までにゴミを出すルールがあり、7時過ぎごろになるとゴミについての質問や苦情などの電話がかかってきます。しかし、その時間には担当者がいませんから市民は情報を得られません。「仕事に関することがすでに行われているのに、それに対応できないのはおかしい」と思いました。インターネットのホームページである程度の情報を得ることはできますが、それでは十分ではない。同じように夕方5時で市役所が閉庁すると市民は困ることがあるのです。ですから、コールセンターは365日、朝の7時から夜の11時まで対応することにしました。

ITmedia コールセンターの運営コストはどの程度でしょう。

森山 年間運営コストは約3900万円で、人口42万程度の横須賀市のような都市でも運営可能な金額です。コールセンターのシステムを構築したわけではなく、コールセンターというサービスを専門業者に委託しました。こちらからデータやインタフェースを提供し、それらを利用して専門業者がデータベースをチューニングしています。コールセンターというサービスを委託しているだけですから設備投資はゼロというわけです。

ITmedia コールセンターのサービスの質が重要になると思いますが、その点はどのように考えていますか。

森山 こちらから提供するFAQはありますが、それだけで十分な対応はできません。コールセンターを利用する方は、聞きたいことがはっきりしてない場合があります。例えば、「印鑑証明は日曜日に取れますか?」と聞いてきても、本当に聞きたいことは「印鑑登録していないが日曜日に登録して、その場で証明書を発行してもらうことはできますか?」ということかもしれない。「もしかして、このようなことをお知りになりたいですか」といった推測ができなくてはいけません。

 そのような質疑応答ができるように情報提供や教育訓練をしています。反対にコールセンターのプロフェッショナルである業者からFAQの作り方などについてアドバイスをもらうこともあります。

ITmedia コールセンターでは「横須賀中央駅の近くのフランス料理店を紹介してほしい」という問い合わせも受け付けるそうですね。

森山 それはぜひやりたかったことです。これまでGISを整備してきましたから、その情報が役に立ちます。また、商工会議所、医師会、交通事業者、観光協会などを通じて情報を提供することができます。団体が情報を持っていれば、そこから情報をもらえばよいわけです。ですから、フランス料理店を紹介することもできるのです。今までバックオフィス系システムを構築してきた成果がここにあるわけです。

ITmedia コールセンターでの回答率はどのくらいの割合ですか。

森山 2005年9月2日から2006年4月9日までの集計で、回答率は約80%です。将来的には95%までに向上させるつもりです。コールセンターですべてを答えられませんから、現在のところ20%の問い合わせを担当部署に転送しています。担当部署で必ず問い合わせに対応するように、イントラネット上に問い合わせ確認システムを置きました。確認システムに「どのような内容か」「どのように誰が処理したか」を登録します。コールセンターの記録と確認システムの記録を合わせると市民の問い合わせに関するデータベースができるわけです。

ITmedia それらを市役所の各担当部署が処理するのは大変ではありませんか。

森山 市役所には全21の部局がありますが、全部署に問い合わせ対応主任者を置きました。毎日約100件の問い合わせがあるとすれば、そのうち20件ぐらいが各部署に転送されます。時間内ならすぐに電話で対応しますし、時間外なら確認システムに問い合わせ内容が登録されていますから、後で対応するわけです。今後、FAQの質が向上すれば、95%まではコールセンターで対応できるでしょう。コールセンターを利用する人が増えても、最終的に役所で処理(市役所から電話をかけ直すなど)する件数は変わらないと予測しています。

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