拝啓 学生様、熱い未来へのチケットいかがですか?

あなたが学生であるなら、今週の土曜は少しだけ将来について思いをはせてみるのはどうだろう。そのためにおあつらえ向きなイベントが開催されるからだ。

» 2006年07月12日 08時00分 公開
[西尾泰三,ITmedia]

 突然だが、今週土曜日の2006年7月15日、もしあなたが学生であり、また、将来について漠然とした不安があるのなら、ぜひ足を運んでもらいたいイベントがある。IBM Student Live 2006である。

 こういった書き出しで始めると、あたかもIBMのPR記事のように思われてしまうかもしれないが、そうではない。単純にイベントとして見ても、「Web2.0に欠けているもの」という何だか魅力的なセッションを皮切りに、IBMの基礎研究部門が中心となって作成しているIBM GTO(Global Technology Outlook)からの最新リポート、開発の初期からかかわってきた佐貫俊幸氏が語るCell Broadband Engine(Cell BE)など、楽しそうなセッションが並んでいる。

 加えて、注目したいのは、日本IBM先進システム事業部Linux&OSS事業開発部長であり、日本OSS推進フォーラム人材育成部会部会長も務める中原道紀氏が「オープンソースが世界を変える」と題して講演を予定している点だ。一見地味にも見えるこのセッションだが、案外このセッションがこのイベントの本質を象徴しているような気がする。以下では、中原氏にお話を伺った内容を基に同イベントについて簡単に紹介しよう。

次代を担う学生にものづくりの楽しさを知ってほしいと中原氏。C言語と英語をガシガシやるべしとアドバイスも

 まず、なぜ日本IBMがこうしたイベントを行うのかという点を明らかにしておきたい。IBMでは、高度な技術力を持つ人材育成を支援するため、学校教育の支援プログラムとして「IBMアカデミック・イニシアティブ」という取り組みをグローバルで展開しているが、基本的にはその一環と考えればよい。ここで、学生向けのイベントとしては、ほかのベンダー、例えばMicrosoftも「The Student Day」を開催している。両者の違いを挙げるなら、少々乱暴な物言いではあるが、The Student Dayが自社製品を学生に使ってもらおうとする意図が少なからずあるのに対し、Student Liveは、何らかの製品にフォーカスするのではなく、ITの世界が5年後、10年後にこのように変わるというイノベーションを伝えようとしている点にある。

 中原氏は今回のイベントについて「作られたものを使うという意識から“創る”ほうに意識を向けてほしい」と話している。日本では、ソフトウェアの輸出入比が1:30と明らかな対外依存の構造が見て取れる現状にあり、そうした海外のソフトウェアをブラックボックスのまま組み合わせて利用するだけでは、結果としてソフトウェア技術が空洞化してしまう危険性はかねてから指摘されてきた。また、中国やインドなどの国々がITの世界で重要な位置づけを占めてくるであろう近い将来において、ソフトウェアの分野で彼らとどうやり合っていくのかが、重要な問題として浮かびつつある。

 突き詰めて考えると、ソフトウェア技術の空洞化は、人材の空洞化にも通ずるところがある。そこで、次代を支える人材を育成する手段として、ソースコードから触れることができるOSSが注目されるのだ。近年ではFirefoxやTunderbirdなどの登場もあり、確かに一昔前と比べると、一般ユーザーでもOSSに触れる機会は増えた。しかし、日本におけるオープンソースコミュニティーを見ると、若い人が活発に活動しているという様子があまり見られない。もちろん、若い開発者がいないというわけではないが、名前の挙がるような人物は数年前から何も変化していないという気がする。VA Linuxの佐渡秀治氏も以前、日本特有の傾向について語っていたことがあるが(関連記事参照)、比較的オープンなはずのオープンソースコミュニティーであっても、なぜかクローズドなものになりがちな傾向がある。

 一方、学生の現状について、「今の学生はスマート」と中原氏は語る、リポートを書かせると、Googleをはじめとする検索エンジンをたくみに活用するなど、「道具」としてITを使う術は冴えているという。単純なコーディング能力も高いと推測される学生たちに欠けているのは、独創性や将来へのビジョンではないかと指摘する。

 しかし、そうした状況にしたのは、学生を取り巻く環境ではなかったかとも話す。最近でこそ、大学で学ぶシラバスベースの縦割りカリキュラムから、問題解決型の育成手法、いわゆるPBL(Problem Based Learning)のような授業形態が主流になっていく動きが見られるなど、ものづくりのベースとなるひとづくりをどうするかという議論は徐々にではあるが進みつつあるが、産業界が求める人材と、将来を担う学生のスキルギャップの発生、また、学校の教育カリキュラムと企業のキャリアパスが必ずしもリンクしていなかったこれまでの状況の改善は、産官学の協調なしにはなし得ないものである。

 「難しいのは、ある程度の人材は育てることができる。しかし、山の頂上まではいろいろな登り方があるにもかかわらず、そこに到達するための手法であるとか、自分がどのくらいのスキルなのかといった全体像が学生に示せていないことが問題。評価システム全体のスキームに問題があると言ってもよいかもしれないが、これを変えていくために産業界も率先して活動する必要がある」

 中原氏の思いとしては、日本IBMの名を冠さずとも、産官学が協調してこうしたイベントを意欲的に開催してほしいのだろう。とは言え、現実的にはさまざまな調整なども必要であろうから難しいことは想像に難くない。そこで、初回でいきなり300人超の学生を集めた実績もふまえた上で、孤軍奮闘している様子がうかがえる。

 「学生時代は、長期的に見て自分のタメになることをすべきで、学生時代の後に来るであろう社会人人生を考えると、そこで産業界が何かしら考えていかなければならない」と中原氏は話す。もちろんこれは容易な取り組みではない。しかし、技術がコモディティ化し、差別化が難しくなる中でどうやって生き残るかを考えた結果、いち早くオープンスタンダード/オープンソースソフトウェアを受け入れることで、今の地位を築いたIBMだからこそ、そのフィロソフィーを次代を担う学生に感じてほしいのだろう。

 前回、初回にもかかわらず300人を超える学生が集まったStudent Live。今回は米国の大学などからも参加申し込みがあるなど、注目度は高い。「IBMってサーバの会社でしょ?」と思っているのなら、その期待はいい意味で裏切ってくれるイベントとなるだろう。

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