日本におけるOSSの幻想――OSS界のガラパゴス諸島、ニッポンOpen Source Way 2004レポート

日本においてはOSS振興の流れが出てきてはいるが、「すべてがうまくいっているわけではない」とVAリナックスの佐渡氏は話す。いびつに変質したコミュニティなど、日本はOSSのガラパゴス諸島であると持論を展開する。

» 2004年12月01日 02時14分 公開
[西尾泰三,ITmedia]

 今年で3回目を迎えるOpen Source Way 2004。日本においてはOSS振興の流れが出てきてはいるが、「すべてがうまくいっているわけではない」とVA Linux Systems Japanのマーケティング部長で、OSDNユニットのユニット長も務める佐渡秀治氏は話す。同氏のセッションでは、日本のおけるOSSの幻想とVA Linuxの戦略が語られた。

佐渡氏 「変質化したコミュニティーはFake Open Sourcer」と話す佐渡氏

 同氏は冒頭、1999年時点の日本の情報サービス産業の輸出入額を示し、日本のソフトウェア産業のもろさを指摘する。図によると、当時の輸出額は93億円、それに対し輸入額は7201億円にも達する。「現在は輸入額は1兆円にも達するが、輸出額はそれほど変わっていない」と話す。

 こうした状況を心配する声は官公庁でも当然存在し、当時、経済産業省大臣官房参事官でOpen Source Way 2002のゲストスピーカーとして招かれた福田秀敬氏は「私の本音は、とにかくWindowsを使うな、ということ」という旨の発言をしており、この辺りからOSS振興の流れが出てきたという。

OSSガラパゴス諸島

 OSS振興の流れは出てきたが、こと日本はOSSに関して独自の進化(退化?)を遂げている部分があると同氏は指摘する。その原因としては、英語という大海で遮断された状況からくる甘えの精神構造、貧弱な開発力とコミュニケーション下手であることなどが挙げられるようだ。

 例えば、パッチを上流に投げるというその方法にしても、日本人は十分な説明もなしにパッチを送りつけ、却下されると怒る、といったコミュニケーション能力の欠如が露呈した形の行動を取ることが多い。本流からも「どうしたいのか分からない」と言われる始末だが、そこで議論することなく引いてしまう日本人のメンタリティについても佐渡氏は問題提起している。

 その上、海外と比べても開発者の平均年齢も10歳近く高い状態で、伝統芸能に近い状況となりつつある日本の開発者は、趣味で開発を行っているユーザーのほうが業務で開発を行っているユーザーよりも往々にしてトータルでのスキルが高いという。

 佐渡氏は、日本Linux協会の会長である鵜飼文敏氏がptraceなどを利用して1日程度で再実装したlivepatchが、Carrier Grade Linuxに大きな影響を与えた話を取り上げ、「世界を見ていないことがどれだけ無駄なことか。コーディング能力うんぬんの問題ではない」と話す。日本のOSSに関する問題は、ユーザー資質よりもむしろOSSの世界を知らないことに起因している部分も多分にあるようだ。

 OSDNが運営しているSourceForge.netのダウンロードトラフィックを見ると、日本は米国に次いで2位となっており、OSSの利用大国であるという。しかし、自分の利用には関心があるが、貢献に対する関心は低いようだ。「とりあえずタダなんだから使いたいというのは日本だけでなく、アジア圏に特有な思考なのかもしれない」と佐渡氏は話し、OSSに対する理解の重要性を説いた。

いびつな変質を遂げたユーザーコミュニティーも

 こうした日本に特有な部分はユーザー会の活動にも見られる。日本には「*ユーザー会」といったものが多数存在しており、世界に例を見ないほど発達している。

 佐渡氏は「日本のなかでもさらに地方支部みたいなものが生まれるユーザー会もあるようだ」と話す。もちろんそのこと自体が問題であるとは同氏は一言も述べていない。問題なのは、本流とかい離し、日本独自の動きをしてしまっていることである。

 こうしたケースでは本流との開発グループとの関係は希薄であることも多く、全体として開発、普及の促進が阻害されるケースことにもつながると同氏は指摘する。

「*-jpといった感じで本流と離れてしまうことは、開発者から見ればよいことではない。また、離れることで利権を得ようとする人たちも現れてくる。かつてDebian Projectのリーダーとして活動していたブルース・ペレンスと話をした際にこうした状況について話したところ、それはFake Open Sourcerだね(だから排除すべき)という結論に達した」(佐渡氏)

 また、同氏は政府・自治体の動きについて、自由競争を促進するという経済産業省のスタンスは、一部問題も見受けられるとしながらも、基本的にはよいと評価している。しかし、標準の採用と、仕様・規格の公開を推し進めることがより重要であるという。

「その成果は別として、おごちゃんこと生越昌己氏が進めていた日本医師会のORCAプロジェクトなどは改めて学ぶ点もあるのではないかと思う」(佐渡氏)

 結論として、日本のOSSというのは、政府などからのカンフル剤はあったとはいえ、実はまだ全体として盛り上がっているわけではなく、個々の立場で勝手に皮算用している段階をちょっと過ぎたあたりであるといえる。OSSを使ってもらうために敷居を下げることばかりがまかり通り過ぎている現状については、世界をリードするのであれば、敷居を高くすることも考える必要があると佐渡氏は話す。

「肝心なのは日本で閉じることなく、グローバルに出て行くこと」(佐渡氏)

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