フィオリーナ氏が学生に講義、テーマは「企業倫理」

HPの元CEO、カーリー・フィオリーナ氏がMITスローン経営大学院の学生向けに講演。テーマは、HP自身を揺らがしている「企業倫理」だ。

» 2006年10月20日 13時04分 公開
[Matt Hines,eWEEK]
eWEEK

 マサチューセッツ工科大学(MIT)スローン経営大学院の講堂を埋め尽くした大学院生を前にして、Hewlett-Packard(HP)の元CEO、カーリー・フィオリーナ氏が講演を行った。同氏は将来のビジネスリーダーたちに、彼らのこれからのキャリアで直面する最も困難な課題の1つが倫理の問題であると語った。

 受付係からスタートしたフィオリーナ氏が世界最大クラスのIT企業の経営トップに上り詰めるまでを描いた同氏の新著「Tough Choices」(厳しい選択)のプロモーションツアーで、同氏が母校の学生に向けたプレゼンテーションのメイントピックとして選んだのは、リーダーとしての倫理観だった。

 プレゼンテーション(および同書)の冒頭でフィオリーナ氏は、2005年2月にHPのCEOを解任されたことについて触れた。この出来事は当時、世間で大きな注目を浴びた。

 「この経験に関するわたしの見解の真正バージョンを提供することができなければ、わたしがこの本の中で述べていることを誰も真剣に受け止めないだろう」と同氏は語った。

 フィオリーナ氏は、HPで過ごした日々、そして同社をその歴史的ルーツから現在のビジネスモデルに移行させる際に直面した困難について説明する一方で、経営者の倫理の問題について繰り返し言及し、特に、個人資産を増やすためにストックオプションに以前の日付を記載したことで批判を受けているIT幹部が急増している問題を指摘した。

 MITでの学生生活を振り返ったフィオリーナ氏は、ゲーム理論を企業の世界に応用することをテーマとしたクラスでの研究について語った。これは、人々が自分の個人的利益のために不合理なビジネス判断を下す理由を科学的に解明する試みだったという。このクラスで学生たちは倫理問題について考えるよう求められたが、今回の日付操作スキャンダルもそういった問題の一例だ、と同氏は語った。

 「一般の従業員からの距離が大きくなり、収益の拡大という名目の下で自社にとっての最大の利益を見落としてしまう経営幹部がしばしば犯す典型的な判断ミスの背景には、こういった金銭欲がある」とフィオリーナ氏は主張した。

 「この本で言いたいのは、どのような立場にいようとも人間は人間であり、立派に職務を果たす人もいれば、そうでない人もいるということだ。これを疑う人は、ストックオプションの日付操作をめぐる最近のスキャンダルを思い浮かべればいい」とフィオリーナ氏は語った。

 「米国で最も尊敬されている企業の中にも、正しい判断と倫理を見失う人がおり、そして不正なことをしても、それを禁止する明確なルールが存在しないという理由で追及を免れると考えている人がいる」(同氏)

 スローン校で受講した「Readings in Power and Literature」(権力/文学読本)というコースでは、フィオリーナ氏は、ビジネスのリーダーには強固なモラルが必要とされることについて、さらに重要な教訓を学んだという。

 同氏によると、ビジネスリーダーの前には、目的をより早く達成するという名目の下に自らの倫理観を放棄する機会が数多く現れるが、こういった誘惑に惑わされないことが、優れた経営リーダーシップの基本教義の1つだという。

 HPの取締役会の情報漏えい問題で違法な調査手法を採用し、パトリシア・ダン会長が9月に辞任に追い込まれたことで世間を騒がせた「なりすまし」スキャンダルに関する質問に対して、フィオリーナ氏は「この問題は、取締役会にオープンなコミュニケーションが欠落していたことが原因だ」と述べた。

 CBSテレビのニュース番組「60 Minutes」での最近のインタビューなど、この間の一連のテレビインタビューの中でフィオリーナ元CEOは、HPの元取締役のトム・パーキンス氏とジョージ・キーワース氏を名指しで批判していた。フィオリーナ氏とダン氏の取り組みを中傷したというのが、その理由だ。パーキンス氏とキーワース氏は、機密情報が報道関係者に漏えいした問題で調査の対象者になっていた。

 「取締役会の情報漏えいのような難しい問題に対処する唯一の方法は、直接顔を合わせて話をすることだ。陰でこそこそやるのではなく、倫理について率直に話し合う必要がある。わたしはそうしたが、率直な話し合いを好まない人もいる」とフィオリーナ氏は語った。

 HPの現在の業績回復の最大の貢献者は、フィオリーナ氏の後継者であるHPのマーク・ハード現CEOであると一般に言われているが、フィオリーナ氏は、自身の解雇後の短い期間だけで企業の財務状況が完全に回復すると考えるのは賢明でないと述べた。

 ハード氏にせよ誰にせよ、1人の経営トップの力だけで、これほどの大企業の財務状況がこれほど劇的に改善したという考え方が広まったのは、業界メディアや著名な業界専門家のせいだ、と同氏は指摘。

 「特にメディアは優劣を付けるのが好きだが、これはマークかわたしか、あるいはほかの誰かかという問題ではない。176カ国に15万人の従業員を抱える年商800億ドルの企業というのはいわば戦艦であり、ジェットスキーではない。戦艦は旋回するのに長い時間がかかるのだ」とフィオリーナ氏は話す。

 「企業を上から下まで変革し、2002年には年間9億ドルの赤字を出していた企業を2004年には35億ドルの利益を上げる企業に変えるのには長い時間がかかる」

 「それには多くの時間とエネルギーを必要とする。これほどの規模の企業が12〜18カ月で方向転換することはできないと、わたしは確信している。わたしの後継者の遺産が明らかになるのは、あと2年ほど先だろう」(同氏)

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