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» 2006年10月27日 08時00分 UPDATE

農業という生き方、若者や中高年が農業に目を向けた理由

専業農家の減少に歯止めが掛からない。しかし、農業離れの一方で、あえて農業に取り組む人たちが増えている。自治体側もそうした人たちを受け入れる姿勢を見せるなど、便利な電化製品に囲まれて暮らす中で見失っていた何かを農業は教えてくれるのだろうか。

[早川みどり,ITmedia]

 専業農家の減少に歯止めが掛からない。農林水産省の統計によると、2006年の専業農家数は、10年前の約6割まで落ち込んでいる。農業従事者の高齢化に加え、農家を継ぐ者が減っていることが減少の原因だ。しかし、農業離れの一方で、あえて農業に取り組む人たちが増えている。

 こうした人たちは大きく2種類に分けられる。農家に生まれていないが、農業を志すケースと、定年後や定年前の熟年サラリーマンが「転職」するケースだ。就職のため都会に出た者が、Uターンして地元に戻るケースだけではなく、都会育ちの者が、Iターンして新しい土地で農業を始めるケースが増えている。そういった人々を自治体が支援する制度も各地で増えている。

 大分県では今年度から「里親農家研修制度」を立ち上げ、農作物の栽培方法や農業経営管理を、実際の農家で学べる取り組みを実施している。この取り組みでは、地域に溶け込めるように、農村での生活についても指導している。団塊の世代の定年退職者を受け入れられるよう、里親先を充実していく予定だ。

 高知県では、同県と地元NPO法人が協同事業として「土佐自然塾」を開催している。「土佐自然塾」は有機無農薬農業を学べる学校で、同県土佐町にある研修センターを中心に、県内の山なども利用して有機農業を理論と実践の両面から学ぶことができる。

 愛知県豊田市では、町村合併で市の面積が増えた一方で、農業従事者の高齢化によって休耕田が増えている。トヨタ自動車の地元でもあり、団塊の世代が定年を迎えることに着目し、「定年退職者の生きがいとしての農業」を提唱する。年金生活者でも参加できる「農作物栽培技術研修事業」を開始した。もちろん、市外からの参加者も受け入れている(関連リンク参照)

 岡山県でも、定年退職後に農業をはじめたい人々を指導する事業をスタートさせた。「地域帰農塾」や「定年帰農推進セミナー」を開き、Iターンの就農希望者を受け入れている(関連リンク参照)

 各地の自治体で始まった他業種からの農業への「転職」受け入れには、現在の就農者が高齢化して廃業してしまう問題とともに、団塊の世代の一斉定年による退職者の問題がある。今の60歳代は健康で、まだまだ働ける体力がある人が多い。一方、農業には定年がない。体が動く限り働ける。作る作物も体力に応じて選ぶことができ、作業も自分のペースで行える。都会で時間に追われた生活をしてきた人たちにとって、農村の暮らしは老後を過ごすには最適だ。

 数年前から静かなブームとなっている「田舎暮らし」も、どうしたら実現できるのか分からないとあきらめてしまう人もいる。そういう人たちにきっかけを与えるため、こういった取り組みには期待したい。

 大分県では2005年、都会に出ていた若者がUターンして農家を継ぐケースが増えたり、定年退職後に農業を再開するケースが増え、新規就農者が21人も増えた。2年連続での増加となり、22年ぶりに100人の大台を越え107人となった。その中には別分野からの参入者が14人もいた。

 若者の新規就農の動機は、食の安全への意識が高まっていることを反映している。彼らは無農薬有機農法を学ぶケースが多い。そういった若者を住み込みで指導する農家も増えている。

 農林水産省の統計では、新規就農者は1990年から増え続けており、2003年には約8万人にも達した。39歳以下の若い年代も増加傾向にあり、203年には約1万2000人となった。農林水産省でも、中高年と若者を新規就農者として育てるプロジェクトを、民間事業者やNPO法人などと協力して進めている。この成果が、少しずつだが出てきているのだ。

 ITが全盛の時代に、あえて農業に向かう若者たちの心情は、食の安全に対する意識の高まりだけではないだろう。かつて、都会へ都会へと向かった若者の価値観に変化が現れているのかもしれない。土に触れ合い、自分の作った物を食べる生活は、都会のような便利さはない。むしろ不便なことも多い。生まれたときから物質的豊かさの中で育った若者たちが求めたのは、都会では味わえない精神的豊かさなのではないだろうか。

 ニートを社会復帰させるプログラムの中にも、農業を採用する団体が複数ある。意外にも、彼らの働きぶりは覚えも早く頼もしいという。便利な電化製品に囲まれて暮らす中で見失っていたものを、彼らは見つけだしたのかもしれない。

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