自律型生活支援ロボット「リー・マン」は介護現場に降り立つか驚愕の自治体事情(1/3 ページ)

視覚・聴覚・嗅覚・触覚の感覚器を備え、これらの情報処理を行いながら人を抱え上げる世界初のロボット「リー・マン」。将来的には介護現場での活躍を期待される同ロボットの研究・開発を進める「理化学研究所バイオ・ミメティックコントロール研究センター」を訪ねその成果と課題を聞いた。

» 2006年10月18日 08時00分 公開
[田中雅晴,ITmedia]

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 「この人を抱き上げてください」「このベッドに座っている人ですね?」「はい」……厚さ約5ミリの柔軟なシリコーン素材の下に計320個の圧力センサーを備え、人と触れ合う際の力加減を調整しながら、「人を抱え上げる」という世界初となる動作を行う自律型生活支援ロボット「リー・マン」。高齢化社会を迎える日本の将来にとって大きな期待が寄せられるリー・マンの開発背景や現状および今後の課題について、研究・開発を進める名古屋市守山区の「理化学研究所バイオ・ミメティックコントロール研究センター」に伺い、センター長の細江繁幸氏、生物型感覚統合センサー研究チームリーダーの向井利春氏に話を聞いた。

細江繁幸氏 細江繁幸氏 理化学研究所 フロンティア研究システム バイオ・ミメティックコントロール(BMC)研究センター センター長兼運動系システム制御理論研究チーム チームリーダー

細江繁幸氏プロフィール

1973年名古屋大工学博士前期課程修了、1974年名古屋大学講師、1976年名古屋大学助教授、1988年名古屋大学教授、2006年3月に定年退職。1999年1月よりBMC運動制御チームチームリーダー、2001年10月から同センターセンター長(名古屋大学と兼任、2006年4月より常勤)。この間、計測自動制御学会理事、論文集委員会委員長、中部支部支部長、SICE2001実行委員長、IEEE Control Systems Society, Japan Chapterのchairなどを務める。


向井利春氏 向井利春氏。理化学研究所 フロンティア研究システム バイオ・ミメティックコントロール研究センター 生物型感覚統合センサー研究チーム チームリーダー

向井利春氏プロフィール

1995年東京大学計数工学科大学院博士課程修了。1995年よりBMCフロンティア研究員〜途中一年間フランス・マルセイユの Laboratoire de Neurobiologieにポスドクとして滞在を経て2001年10月よりBMC生物型感覚統合センサー研究チームのチームリーダーに就任。1999年度計測自動制御学会論文賞など受賞。


触覚を使い、力仕事ができるロボットの存在意義

 既に実用化され、多くの現場で使用されている産業用ロボットや、HONDAのASIMOに代表されるエンターテイメント型ロボットなど、日本はロボット開発に多大な力が入れられているロボット大国であるといえる。しかし、決められたものを正確に行うことのみを求められる産業用ロボットは言うまでもなく、エンターテイメント系のロボットにおいても、こと「人との接触」ということに関してはまだまだ実用化には程遠いというのが実情だ。

 現在でも、例えば本特集で以前に紹介した「各務原カカロ」のように、人間のそばに存在して案内をするロボットや、あるいは一世を風靡(ふうび)したソニーの動物型ロボット「AIBO」のように、「人から働きかけて触れる」ロボットは存在している。だが、現在バイオ・ミメティックコントロール研究センターが研究を進めている「リー・マン」のように、「人間と『力のやり取り』をする」ロボットは、実用段階にあるものはいまだ存在しない。

 「ロボットの未来を考えた時に、将来的にロボットが本当に必要で、かつロボットが作業できる分野を考えると、介護など、人の生活の中で人が力を使う領域ではないかと思う」と細江氏は語る。同氏は続けて「ただ、需要はありながら、この分野はどちらかというと避けられてきた分野」であるとも明かす。それはなぜなのだろう?

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