自律型生活支援ロボット「リー・マン」は介護現場に降り立つか驚愕の自治体事情(2/3 ページ)

» 2006年10月18日 08時00分 公開
[田中雅晴,ITmedia]

解決すべき課題は山積

 人と接触し、力のやり取りをするロボットの開発が「どちらかというと避けられてきた分野」である最大の理由を尋ねると、「要するに作るのが難しいから」と、向井氏は言う。

 このタイプのロボット開発にかかわる課題は数多くあるが、その中でまず最も基本的な部分は、サイズと出力の問題。人間の生活空間に入り込んで行動するのだから、そのサイズは人間と同程度のサイズであることが望ましい。それでいて、人を抱え上げたりするような大きな出力が要求される。それを可能にする、小型で大出力の駆動機構が必要とされるのだ。

 加えて、安全性も重要な課題となる。人間の生活圏では、常に周りの環境――部屋のレイアウト、対象となる人間の位置、足元の状態、明るさ、音……――が変化する。それらにすべて対応した上で、何よりも人間に危害が加わらないようにコントロールされなければならないのだ。

 視覚・聴覚・嗅覚・触覚などのセンサーを備え、これらの情報処理を行いながら、適切な対処を判断し動作するという、極めて高度な処理が必要となる。そしてこれらの研究は、まだ現時点で「できるかどうか」の判断が難しい分野なのだ。 「ある程度の期間で成果を出すことが求められる企業では、このような『できるかどうか分からない』ものの研究はどうしても避けられる。そこで、われわれのような独立行政法人などの研究機関でしかできない研究を、ということでリー・マンの開発が始まった」という細江氏。このような研究が可能な環境である「バイオ・ミメティックコントロール研究センター」についても触れておこう。

名古屋市新基本計画の重点事業「なごやサイエンスパーク」

 独立行政法人理化学研究所の一部門として、「高等生物の高度な制御機能を工学的に模倣し、柔軟、精緻かつ信頼性の高い工学システムを創出する」(公式サイトより)を目的とする「バイオ・ミメティックコントロール研究センター」は、名古屋市守山区の閑静な一角・志段味地区に存在する。

 同地区は、名古屋市が1987年3月より進める「産業活性化計画」の一環として、産・学・行政の連携した研究開発拠点「なごやサイエンスパーク」が1988年3月に建設された場所であり、民間企業のベンチャー研究所などに施設を用意して市が援助を行っているエリアだ。

 前述したように同センターは理化学研究所の一部門であるので、直接的に名古屋市など自治体の事業というわけではないものの、名古屋市はこの地域でロボット研究を目玉にしようとしており、ロボットに関係する産業を育成する方向にあるという流れの中で、大きな期待を寄せられている機関だ。

 現時点で同センターでの研究開発が名古屋市の行政サービスに直結するわけではないが、エリアそのものの援助が、最終的にはそのアウトプットとして、行政サービスに結びつく可能性はある。

プロジェクトの一つの集大成としての、自律型ロボット

 同センターは、例えば物体の操作や歩行などに代表される、高等生物の制御機能を工学的に研究し、それを基にした工学システムを創出することを目指している。研究者は現在、常勤で20人ほど。加えて、さまざまな大学の研究者などが非常勤で参加している。研究所そのものが、1993年にスタートした、15年間の研究プロジェクトだ。

 プロジェクトは前期と後期に分かれ、2001年までの前期では、「運動回路網研究チーム」「運動遺伝子研究チーム」「生体ミメティックセンサー研究チーム」「制御系理論研究チーム」の4チーム体制で、医学者や生物学者を交え、基礎研究を中心に進行した。その後、現在に至る後期において、「基礎研究ばかりではなく、社会から良く見える研究を」という考えに基づいて、ロボットをテーマの一部に入れることになり、それがリー・マンの開発につながっている。いわば、プロジェクトの集大成的な意味合いも持っているのだ。

 プロジェクトは後期も4つのグループから成り、「生物制御システム研究チーム 」「運動系システム制御理論研究チーム」「生物型感覚統合センサー研究チーム 」「環境適応ロボットシステム研究チーム」となっている。この各グループの中から有志の研究者が集まりリー・マンを開発している。

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