自分や家族を「記録する」未来の家がORF 2006に登場

11月22日、23日にわたって開催される「SFC Open Research Forum 2006」。展示の最大の目玉は、そこに住む人を記録する未来の家、「iLog House」だ。

» 2006年11月20日 16時30分 公開
[ITmedia]

 「柱の傷はおととしの……」という童謡ではないが、家にはそこで暮らす家族の記憶がさまざまな形で刻み込まれるものだ。それを、ITの力でもっと自然に、より充実させていこうというコンセプトによる新しい「家」が、東京・丸の内に登場する。

 慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス(SFC)のSFC研究所は11月22日、23日にわたって「SFC Open Research Forum 2006」を開催する。昨年までの3回は六本木ヒルズを会場としていたが、今回は東京・丸の内地区を舞台に、シンポジウムやさまざまな展示、デモンストレーションを実施する予定だ。研究室から街の中へと飛び出すことで、一般の人々に最新の研究成果を体験してもらい、新たな産官学連携につなげていくことが大きな狙いになる。

 その目玉展示の1つが、「生活を記録する」というコンセプトに基づく近未来のモデルハウス「iLog House」だ。慶應義塾大学大学院、政策・メディア研究科講師の岩井将行氏は、丸の内・東京ビル(TOKIO)のコンコースに置かれるこの展示を通して「未来の家、未来の住空間の姿を一緒に考えたい」と語っている。

慶應義塾大学大学院、政策・メディア研究科講師の岩井将行氏は、「iLog Houseを通じて未来の家の姿を一緒に考えたい」と述べる

 「本来家というのは長く住むものだが、今は建てて、売って、それでおしまい。そうではなく、ユーザーとともに成長し、変化していくような家を提案したい」(岩井氏)

人の変化に合わせる家を

 iLog Houseは、そこに住む人のさまざまな記憶を記録し、それを元に自分自身を成長させていく家だ。それも、住人が意識して能動的に行動を起こさなくとも、センサーやRFIDタグ、カメラやマイク、それらを結びつけるアプリケーションを組み合わせて、自動的に記録される。

 「ユーザーの考えていること、やりたいことを家が記録し、さらに生活スタイルの変化に応じていろんなことを提言していけるようにしたい」(岩井氏)

東京ビル(TOKIO)のコンコースに置かれるiLog House(写真はまだ建設中の姿)

 たとえば、安村研究室による玄関に置かれた「姿見」では、毎日出かけるときの姿を画像として記録していく。日々の姿を記録するとともに、服やコート、靴をどうコーディネートすべきかの大きな参考になる。また、家に帰ってきて心身を休めるバスタイムでは、ブログならぬ「フログ」でその日の出来事を思い返し、記録することができるという。

 センサーを活用した展示としては徳田・高汐研究室の「DIY Smart Obejct Service」がある。マグカップに超小型のセンサーを取り付け、どのように使われているかという情報を収集。高齢の家族を抱えている場合は「ちゃんと飲み物を飲んだか」といった情報を元に生活の様子を見守ることが可能だ。また、出かけるときに「サイフを忘れていますよ」と呼びかける忘れ物防止システムなども考えられる。

 日々の記録が取れるということは、日々の健康管理にも有効だ。情報システムを活用した医療・介護支援を目指した「e-care」という一連のプロジェクト展示では、例えばダイニングテーブルの食事を写真データとして記録、蓄積していき、「このままでは生活習慣病になりますよ」といったアドバイスを事前に送り、ユーザーが自分自身で健康管理を行えるよう手助けしていくデモが行われる。また、食品棚でICタグを活用することで、アレルギーを持つユーザーに注意を呼びかけるといった利用法も提案される。

 もちろん、ユーザーが意識しないうちにさまざまな情報が記録される以上、プライバシーへの配慮は欠かせない。「自分の情報を自分でコントロールできることが基本。SNSのように、情報をどこまで公開していいかについて、情報を取得される側が意思表示できる仕組みも今後検討していく必要がある」(岩井氏)

 iLog Houseを構成する重要な要素が「可動性」と「モジュラー性」だ。それを如実に表すのが、組み立てられた形状に応じて自己組織化するユニバーサルパネル「u-Texture」である。u-Textureは、いわばIT化された組み立て式パネルボードだ。中にはPCやRFIDリーダ、無線LANによる通信機能などが搭載されており、組み合わせた形に応じて本棚やCDプレイヤー、あるいは映像を表示する壁へとダイナミックにアプリケーションを変えていく。

縦向きか横向きか、単独か横につながっているかといった自己の形態を自動的に把握し、それに応じたアプリケーションが利用できるu-Texture

 将来的には「住んでいる人の変化や家族構成の変動、あるいは季節や天気などに応じて変化し、成長していく家を実現したい」と同氏はいう。

産学連携で実現する「変化する家」

 iLog Houseはまた、産学連携のあり方を示すモデルケースでもある。展示は慶應義塾大学の複数の研究室と三菱地所が共同で主催しており、さらに複数の民間企業が協賛し、未来の家の姿の具現化に一役買っている。

 例えばガラスメーカーのFiglaでは、プロジェクタスクリーンとしても機能する「MGSSystem」やガラス窓自体が発熱する「窓暖」を展示するほか、iTokiでは、いろいろな場所に動かせる可動式家具「Puzzline」を紹介する。また三菱電機も、やはり可動式のクッキングタワー(IHクッキングヒーター)のモックアップを展示する予定だ。

 「未来の家というのは一度作ったら終わりではなく、一生を記憶し、はぐくんでいくものになる。作り込みではなく、日により、季節により、あるいは年齢により変わってくることに対応できるようになる」(岩井氏)

 岩井氏は研究室を飛び出た一連の実験的な試みを、丸の内を訪れるさまざまな人に体験し、いろいろな使い方を感じ、提案してほしいと述べた。「ぜひ来て見て、触って体験して欲しい」(同氏)。それを通じて、多くの人の生活をよりよいものにしていければという。「学術というエリアに閉じこもるのではなく、リアルなアクションを起こしていくこと、それがSFCの使命だと思う」

 iLog Houseは、ORF 2006終了後もTOKIAで11月29日まで展示される。

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