オープンソースビジネスは枯れてまた咲く「行く年来る年2006」ITmediaエンタープライズ版(1/2 ページ)

終わってみると、2006年のエンタープライズ市場におけるLinux/OSSは2つの大きな出来事で語ることができる。キーワードとしては、「サポート」「仮想化」になるが、いずれも業界に激震を走らせ、今後訪れる大きな変化の萌芽と見ることができる

» 2006年12月28日 07時00分 公開
[西尾泰三,ITmedia]

 ここ数年、技術的には進歩を続けているとはいえ、平穏と言えば平穏であったエンタープライズ市場におけるLinux/オープンソースソフトウェア(OSS)。しかし2006年は大きな出来事が立て続けに起こり、新たな時代への模索が見て取れた。

Red Hatを襲う試練

 「オープンソース開発モデルは顧客にとって有利な方向にエンタープライズIT経済を変化させていくという信念において、Red HatとJBossは完全に一致している」とRed Hatのマシュー・ズーリックCEOが述べ、JBossを買収したのが4月。単なるLinuxディストリビューターから脱却し、オープンソースのミドルウェアスタックまでしっかりとサポートするのだというメッセージが込められたこの発表は、Red Hatがエンタープライズ向けLinuxを提供すると発表した以来の衝撃的な発表となった。

 この発表で、ミッドレンジにおけるRed Hatの勢力は今後も継続するかに思われたが、それに待ったをかけたのがOracleだった。同社が10月に開催した「Oracle OpenWorld San Francisco 2006」で基調講演に立ったラリー・エリソン会長兼CEOは、「OracleはRed Hat Linuxに対してエンタープライズ級のサポートを提供する」と業界を揺るがす発言を突如繰り出した。Oracleのこの発表は、現在のエンタープライズ市場におけるLinuxディストリビューターの限界を暗に示したものでもあった。

Oracle OpenWorld San Francisco 2006での1コマ。このときのエリソン氏の発言がRed Hatを大きく揺さぶった

 Linuxディストリビューターのビジネスモデルは一般的に、開発の基本的な部分をコミュニティーの力も借りることで効率よく行い、それらをパッケージングし販売することで回る仕組みとなっている。これを第1段階とすると、第2段階では、サポートも行うという流れになるわけだが、Red Hatはこのサポートをエンタープライズレベルでも通用するものを提供するとしたことで、従来の値段から大きく跳ね上がったにもかかわらず市場に受け入れられた。

 しかしIBMやHPといった大手企業と比べると、人的なリソースではるかに劣るLinuxディストリビューターは、とてもそこまで十分にリソースを割けないといった現実も明らかになってきた。特に、パッチなどの適用ではそれが顕著で、OSレベルでは検証できていても、アプリケーションレベルまで含めた検証まで行うにはとてもリソースが足りない。そのしわ寄せは主にIHV、一部はOracleのような大手のISVにくることになる。そうしたIHVやISVは、自社製品の販売機会の拡大のため、自社にLinuxのエンジニアを多く抱え、そうした声に応えてきた。

 人員も、そのノウハウも十分に拡充してきたことで生まれたある疑問──「自分たちでサポートできるのではないか?」──が具現化したものがOracleの発表となるわけだが、当然上述したように、これに追随できる企業はほかにも存在する。一例を挙げるなら、Oracleの発表より2カ月ほど前に開催された「LinuxWorld Conference & Expo」でHPは、2005年に自社に問い合わせがあったLinux関連の問題のうち、その99.5%を自らで対応したと明かした。また、同じLinuxWorldでHPがDebianのサポートを正式に表明したのも、見方を変えればOracleと同種の発表を行ったともいえる。

 「ここは自由競争の世界だ」と鼻息も荒いエリソン氏だが、一連の発表がRed Hatに与えたインパクトは大きい。Red HatのJBoss部門上級副社長兼ゼネラルマネージャのマーク・フルーリ氏は、これに対抗する手段の1つとして、「より多くのアプリケーションおよびサービスによって製品スタックを拡充する取り組みを強化すること」と話している。しかし、アプリケーションまで含めたエンタープライズ級のサポートを本当にRed Hatができるのかと問われている現状で、本当にその方向に進むのか、または、これまで通ってきた道を引き返すような方向に進むのかという重要な局面に『「かわいい」ペンギンに歯が生えてきた』Red Hatが立たされていることは間違いない。

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