FOSSの理想郷ブラジルにイメージ失墜の危機OSS World Report(2/2 ページ)

» 2007年01月30日 09時00分 公開
[Bruce-Byfield,Open Tech Press]
SourceForge.JP Magazine
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魂の抜けたフリーソフトウェア

 FOSS支持者たちは、FOSS導入の背後にある狙いについても懸念している。フリーソフトウェアのコンセプトには、行政機関と民間企業の双方がFOSSを採り入れたいと考える理由が数多く含まれている。だが実際のところ、多くの人々は自由であることの理念よりもコストがかからない点に関心を寄せているように見える。フランコ氏は、ブラジルの多くのFOSSプロジェクトについて「(仮想ではなく実在の)プロジェクトオフィスの部外者は誰もソースコードを見たことがない」とblogに記している。ソースコードの共有がFOSSコミュニティーの核心部分であるにもかかわらずである。

 事実、フリーソフトウェアの開発と販売を手掛けるブラジルの組織や企業の多くは、ソースコードの提供または公開を求めているGNU GPLの第3条に違反しているように見える。そうした企業には、新規ユーザーによって広い範囲でインストールされているディストリビューションKuruminや、Kuruminから派生したPoseidonKalangoのほか、BlaneDual O/S(以前のFreedows)の開発元も含まれている。これらはいずれも、ソースコードがWebサイトのどこにも見当たらないディストリビューションである。

 フランコ氏によると、Kuruminがソースコードを提供しない理由は、元のDebianコード以外のソースコードは利用していないと開発者たちが主張しているからだという。「これは事実ではない」とフランコ氏は断言する。しかし、仮に開発者たちの主張が事実だとしても、ディストリビュータは自らのソースコードを提供する義務がある。同様の立場にあるそのほかの多くのディストリビューションについてもフリーソフトウェア財団(Free Software Foundation)によってGPL違反が明らかになっており、Kuruminなど先に挙げたブラジルのディストリビューションも例外ではない。

 さらにフランコ氏によると、Kuruminの使用許諾契約書にはKurumin開発者を訴えたユーザーは「ソフトウェアの使用権を失う」と記された条項が含まれているという。またDual O/Sには使用期限が240日間の評価版が含まれている。これらの制限はいずれも、再実施許諾を禁じた第4条およびGPLの諸権利を以降のユーザーに伝えていくことを求めた第6条といったGPLの追加解釈の内容に反しているように思われる。

 またフランコ氏は、シンクライアントのプロジェクトであるPlurallについても、ソースコードが未公開という点でGPLに違反していると述べている。ただし、Plurallを開発するemredeのリカルド・シュナイダー氏はNewsForgeに対し、ソースコードの含まれたリポジトリがまもなく公開される、と話している。

 FOSS支持者たちの心配は、このような問題の解決よりもむしろ、ブラジルの企業やプロジェクトがフリーソフトウェアの定義を自分勝手に再定義しようとしていることにある。シルバ氏が指摘しているのはパラナ州で設定されたライセンスで、このライセンスはフリーソフトウェアの定義とは両立しない。南米におけるFSFの姉妹組織であるFSFLAはこのライセンスの是正を試みているが、同ライセンスの起草者の1人であるオマー・カミンスキー氏に代表されるような「GPLはブラジルの法制度に合わない」、「ブラジルのフリーソフトウェアは米国とは別の方向に動いている」といった意見が出ているため、FOSS支持者たちの心配が和らぐことはない。

 万が一、現在の傾向が続いた場合、ブラジルにおけるFOSSの運動は「コミュニティーを指向したものにはならず、好業績の企業にいいように利用されてしまう」とフランコ氏は懸念する。「詳細な情報やソースコードは利用できなくなるだろう。規模は小さいが、事態はすでにそうした方向へと進みつつある」

故意の不正か意識の欠如か

 ブラジルにおけるFOSSの活動の中には、純粋なFOSSと思えるものも確かに存在する。その例として、シルバ氏はMandrivaを挙げている。InsigneというディストリビューションもGPLに準拠しているようだ。以前のバージョンには品質の問題があったが最新版はかなり改善されたと聞く。シルバ氏は、ブラジルにいる多数の個人開発者がフリーソフトウェアに貢献している点にも言及している。その大半は「過剰な宣伝が行われる前から活動に携わっていた」という。

 「政府機関、非営利組織、企業の多くはFOSSの訴求力を利用して大衆を説き伏せ、(サッカーに次いで)お得意の「不正行為」を働こうとしている」とフランコ氏は歯に衣着せず言う。

 これに対し、シルバ氏はこの問題について次のように語る。「問題の大部分はお金を出さない利用者や、実際には行動を起こさず口先ばかりが達者な連中にかかわるものだ。別に政治的な不正をほのめかしているわけではなく、フリーソフトウェアに関してそうした不正が存在する証拠を見たわけでもない。ただ、能力不足、対価を支払わずしての利用、意識の欠如について言いたいだけだ」

 それでも1つ確かなことがある。世界中のほかの国々がブラジルのFOSSに対して抱いているイメージが、その実情とずれていることだ。「世界中で言われていることは必ずしも真実ではない」(フランコ氏)。

Bruce Byfield氏はセミナーのデザイナー兼インストラクターで、NewsForge、Linux.com、IT Manager's Journalに定期的に寄稿しているコンピュータジャーナリストでもある。


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