小中高校ではITは役立たず!?教育におけるITの利活用を考える 第1回

IT化の進み具合が芳しくないと指摘される公共分野。とりわけ、小中高校といった教育分野は、魅力的な市場であるにもかかわらず、その進展度はことのほかよくない。

» 2007年02月02日 11時00分 公開
[成川泰教(NEC総研),アイティセレクト編集部]

魅力のある市場のはずだが…

 IT利用の幅が広がる中でも、利活用や普及の点でなかなか進展しない領域が依然としてある。日本市場の代表例として挙げられるのは、やはり行政や公共の分野だろう。

 電子政府や地方自治体におけるITシステムの市場は、財政のボトルネックや官僚的組織体制と業務効率化の矛盾、あるいはITベンダー側に内在する諸問題などが複雑に絡み合い、インターネットサービスのような「何でもあり」の自由競争市場とは、およそ程遠い様相を呈している。

 とりわけ、最近何かと事件や議論の多い教育分野では、IT導入はあまり進んでいない。利用者となる学生数から考えられる市場規模や、それが継続的に存在するという市場の安定性、あるいはアプリケーションやサービスの面から考えられる応用範囲の多様性やマルチメディア活用を含めたデータ量の膨大さなど、IT市場として極めて魅力的なポテンシャルを持つことが指摘できるにもかかわらず、IT化は遅れている。

大学との間にある役割の違いが主要因か

 教育分野の中でも大学レベルになると、ドメインの取得やウェブサイトの運営は当たり前となっており、カリキュラムの登録から成績管理に至るまで、インターネット時代にふさわしいそれなりの利活用は進んでいる。それが大学本来の使命における質的な向上にどれほど貢献しているかという議論は別にして、学校教育のIT市場といえば大学を意味するという認識は業界で定着しているのが現状だ。

 しかしながら、最近の教育改革論議の中心となっている、小中学校の義務教育機関やそれに続く高等学校においては、私立校など一部の例外を除き、ITシステムの導入やその利活用にはまだ大きな遅れがあるというのが、比較的多くの人の実感ではないだろうか。

 もちろん、人間としての自主性が育まれていることが前提だ。本人の意思で専門性を高めることを目的とする大学と、それ以前の課程としてそこに至るまでの人間性の形成や基本的な知識の習得に重点を置く小中高校では、教育機関としての役割は大きく異なる。ここで問題になるのは、後者のような目的において「ITは役に立たないのか」ということだろう。

 それは、一般企業での場合と同様、ただITを導入するだけで何かが期待できるという単純な問題ではないということが背景にある(「月刊アイティセレクト」掲載中の好評連載「新世紀情報社会の春秋 第十回」より。ウェブ用に再編集した)。

なりかわ・やすのり

株式会社NEC総研 調査グループチーフアナリスト

1964年和歌山県生まれ。88年NEC入社。経営企画部門を中心にさまざまな業務に従事し、2004年より現職。デバイスからソフトウェア、サービスに至る幅広いIT市場動向の分析を手掛けている。趣味は音楽、インターネット、散歩。


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