SaaSに取り組むのは、もはやハードウェアベンダーやSIベンダーだけでなく、個人向けのサービスベンダーにまで広がるなど、IT産業に構造変化をもたらしつつある。同時に、サービス化はソフトウェアだけでなく、プラットフォームまでにも及んでいる。
企業向けITベンダーの視点からSaaSというテーマを考える上で、インターネットサービス事業者は非常に重要な存在である。特に興味深いものとして、グーグルそしてアマゾンの動きがある。
グーグルは以前から企業向けにエンタープライズサーチを提供している。それとは別に、このほどメールやメッセンジャー、カレンダー、ウェブサイト制作管理ツールを統合し、企業向けに提供するサービスを無償で開始した。主に中小企業向けと位置付けているという意味では、オラクル、SAP、マイクロソフトといった、一連の企業と視点は同じ(1月17日の記事参照)だが、各社がCRM領域を中心に着手しているのに対して、特定業種や業務によらない――もう少しいうなら、生活者にも通じる――共通機能でこれを展開している点は興味深い。今後そこに、同社が提供するウェブ版のワープロや表計算ソフトなどが加わるのは想像に難くないだろう。
セールスフォース・ドットコムのサービスでも、そのようなグーグルのアプリをモジュールとして組み込めるだけでなく、地図サービスのグーグルマップをマッシュアップで利用するアプリやウェブ広告のアドセンスを管理するものが出現している。こうした両社の緊密な関係に、通常のビジネスパートナー以上の何かを感じるのは筆者だけだろうか。
一方、アマゾン・ドットコムは従来から提供しているWebサービスの延長に、新たに仮想ストレージと仮想コンピューターから成るプラットフォームサービスを相次いで発表した。いずれも従量制の料金体系を備えた有償サービスで、当初はWebサービスの開発者向けのみに提供される。これは直接的にはビジネス市場向けのITサービスではないが、ウェブ関連での起業を目指すベンチャーにとって、非常に有益なサービスであることをCEOのベゾス氏自らが語っている。
従来、企業向けにECプラットフォームサービスを提供しているアマゾンが、新サービスで集めた外部のプログラム開発リソースを、自社だけでなくそうした外部の企業のプラットフォーム構築に活用しようとする方向性が見て取れる。その意味では、セールスフォースが推進するプラットフォームサービスに類似した動きといえる。
ネットワークを経由させるサービス化は、もはやソフトウェアにとどまらず、いわば「プラットフォーム・アズ・ア・サービス」の時代に入りつつある。重要なのは、ハードウェアベンダーやSIベンダーではなく、個人向けのサービスベンダーによって主導されようとしていることだ。開発者たちは企業としてではなく、プラットフォームやWebサービスの上に、緩やかにしかし大規模に組織化され、従来とは違ったベンダー構造を形成しようとしている。SaaSがITベンダーの関心を集める背景には、それが示唆するこうした新たな構造変化の予兆が見え隠れしていることがある(「月刊アイティセレクト」掲載中の好評連載「新世紀情報社会の春秋 第九回」より。ウェブ用に再編集した)。
※ 本文の内容は、特に断りのない限り2006年10月現在のもの。
なりかわ・やすのり
1964年和歌山県生まれ。88年NEC入社。経営企画部門を中心にさまざまな業務に従事し、2004年より現職。デバイスからソフトウェア、サービスに至る幅広いIT市場動向の分析を手掛けている。趣味は音楽、インターネット、散歩。
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