「新ASP」登場 オンデマンドの価値再燃か「SaaS」の未来やいかに 第1回

将来を有望視されていながらも、その期待にこたえられなかったASP。ただ、それは「束の間」だったのかもしれない。その成長の礎を担う環境が整った昨今、ASPは新たに生まれ変わって登場した――。

» 2007年01月09日 07時00分 公開
[富永康信,アイティセレクト編集部]

 SaaS(Software as a Service)とは、データセンター内のサーバーにベンダーがホスティングしたアプリケーションソフトを、契約者がインターネット経由で利用するモデルのこと。「サービスとしてのソフトウェア」と訳され、昨今、ASPに替わる、オンデマンド型のアプリケーション利用形態として注目されている。

ASP復活とSaaS台頭の舞台裏

 米調査会社のガートナーによると、新規ソフトウェアの売り上げ全体に占めるSaaSの比率は2005年、5%だった。それが2011年には25%に達するという予測を先日発表した。従来、利用分野はCRMを中心としていたが、今後はそれ以外でも積極的に導入されると見ている。実際、アクセンチュアはオンデマンドが今後の大きなマイルストンになると判断し、その関連技術に4億5000万ドルを投じたとされる。

 なぜ、それほどまでにSaaSに関心が集まっているのだろうか。それにはいくつかの理由がある。その一つは、ネットワーク環境の変化に応じたASPの見直しを考えるタイミングにきたことだ。

 ASPのように、センター集中的に管理されたソフトウェア(サービス)を適宜利用できるということについて、すでに40年以上も前からその利点は提唱されている。だが、そのASP市場は1999年ごろから拡大が期待されていたものの、ネットワークの未整備と高額な回線料金という壁に阻まれ、当初予測されたほど普及せず、急速に低迷した。

 2002年ごろになって安価で高速なブロードバンドが浸透し始めると、ASPモデルは再び脚光を浴び、ASP事業者は収益改善を図ることができるようになった。そして、こうしたネットワーク環境の変化を無視し、これまで通りITを設計することは非効率だと考えられるようになった。インストール作業を必要としないため導入コストを抑制でき、バージョンアップなどの手間もかからず、しかもユーザー数に応じた安い料金体系で使えるという、ASPの当初の理念を具現化できるようになったのである。これが、ASPの見直し、もしくはSaaS躍進の背景となっている。

ASPの進化

 また、ASP時代は契約ユーザーごとにサーバやシステムを用意する「シングルテナント型」が主流だったが、SaaSモデルは複数のユーザーが利用状況に応じて動的にリソースを共有する「マルチテナント型」を前提としている。こうしたことは革新的だった。

アプリケーション活用に対する意識変化

 SaaSモデルの登場により、アプリケーションを利活用するには運用環境とともに「ソフトウェアを所有する」というのが常識だったユーザー側の考えは、発達したインフラを使って最新で安い「サービスを使用する」ことへ変化した。

 ベンダー側の意識も変わった。顧客にソフトウェアを購入させるのではなく、サービスを利用してもらうという方向に進み始めた。そのため、これまでのようなクライアント/サーバ型アプリケーションの再利用ではなく、オンデマンドに適したサービスを用意するようになった。常に安定した環境を提供しなければならないという緊張感も加えられている。さらに、これまで弱点とされたカスタマイズにも対応できるように技術を大幅に進化させている。

 新ASP、あるいはSaaSへの期待感は高まっているのである(「月刊アイティセレクト」1月号のトレンドフォーカス「オンデマンドの未来が再燃 SaaSはビジネス要求を取り込めるか?」を再編集した)。

(※) ASPに近い、ユーティリティ・コンピューティングという概念を紹介したのは、米マサチューセッツ工科大学(MIT)のコンピュータ科学者、マーチン・グリーンバーガー氏。1964年、The Atlantic誌に寄稿した論文の中で紹介した。ただ、現在ではユーティリティ・コンピューティングを表明するベンダーは少ない。
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