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» 2007年04月10日 08時00分 UPDATE

「コンテンツの時代」は芸に通ずる――WiiとSiliconLIVE!の奇妙な符合

「来る、来る」と言われ続けたコンテンツが中心となる時代。気がつけばそれが現実となっている。そんな時代にあって日本SGIのSiliconLIVE!と任天堂のWiiに共通するのはコンテンツの活用方法にあった。

[西尾泰三,ITmedia]

 日本SGIが「コンテンツが主役の時代」と提唱し出したのが2005年。今から振り返ってみると、時代は確実にコンテンツ自体の価値が高く評価される方向へと向かいつつある。エッセンスとなるのはコンテンツを作り出すことにほかならないということに気がつき始めた企業は、企業内に眠る情報資産をコンテンツとして活用すべくまい進し、まだこの動きに乗り出せていない企業の注目を集めつつある。

 日本SGIで代表取締役社長CEOを務める和泉法夫氏は、システムやPCが主役であった時代、日本IBMやタンデムコンピューターズ、そしてコンパックコンピュータの日本法人といった企業でその栄枯盛衰を経験してきた。そんな同氏は、ネットワークが中心であった時代においては、あえてその波に乗らず、日本SGIに身を投じ今に至る。システムやPC、ネットワークといった要素がインフラと化し、コンテンツが中心の時代となった今、同氏は何を考えているのか。そんな同氏に話を聞いた。

和泉法夫氏 「コンテンツの時代における日本SGIのビジネスは8合目あたり?」と聞くと、「そこまで行っていたらもう左うちわですよ」と笑う和泉氏。しかし、手応えは感じているようだ

ITmedia いろいろお聞きしたいことはありますが、メディアエクスチェンジとの業務・資本提携契約から入ります。それまで日本SGIとは取引関係すらなかったライブドアから突如メディアエクスチェンジ株31.56%を取得した背景はどのあたりにあるのでしょう。

和泉 ご存じのように、SiliconLIVE!は、コンテンツの作成から配信まで一連のワークフローを網羅したソリューションですが、そこで扱うコンテンツは当然映像なども含まれます。これまでは、配信の先、つまりコンテンツが流れるネットワークの部分についてはカバーしていなかったのですが、コンテンツをストレスなくエンドユーザーに届けることがSiliconLIVE!を語る上での責任だと考え、あの発表につながりました。IX(Internet eXchange)の大本に位置するMEXがわたしたちのソリューションにおいて重要だったのであり、データセンター、つまりiDC事業に興味があったのではありません。

ITmedia MEXとの提携で、エンドユーザーまでの道筋がキレイに描けたとするなら、SiliconLIVE!に欠けているものはなくなったという理解でよいのでしょうか。

和泉 形としては線がつながったと考えています。日本SGIとしては、今後は中身のソリューションを分かりやすい形で充実させていくことになるでしょう。

ITmedia サイレックス・メディア(Silex Media)を欧州に設立したのがちょうど1年前ですね。

和泉 世界経済フォーラム(WEF)が先日発表した2006年度版「世界IT報告」をご覧になりましたか? 国別・地域別のIT競争力ランキングで1位となったのは、デンマークでした。2位にはスウェーデン、4位にフィンランドと北欧勢の強さが目立った調査結果となっていました。

 デンマークで最大の公営ラジオ/テレビ会社である「Danish Broadcasting」などでは、コンテンツを変に規制することなく、放送とネット配信を同時に行い、さらにさまざまな加工を加える体制が整備されており、フルデジタル/テープレスのシステムが完全に確立されています。当然、フルデジタル/テープレスの波は日本にもやってくる――一部はすでに到来している――わけですが、欧州に蓄積しているそうしたノウハウを持つことはわたしたちにとって大きな武器となります。

 すでに放送局の在り方も大きく変化しています。米国のスポーツ業界、例えばNBAなどを見ると、自分たちの試合をコンテンツとして自分たちで管理し、配信しています。放送局にはそのコンテンツを売っているのです。一方では、YouTubeなどの登場によって、誰もが情報の発信者になる・なれるというのが理解されたのではないでしょうか。つまり、企業自らが外部に向かってコンテンツを発信できる、いわゆる放送局のような機能を持つことが意義があり、また、現実解として存在するようになったわけです。すでにSONYなどからは企業が情報発信するための設備が安価に提供されています。かつて放送局が手がけていた領域が一般でもできるようになったときにどうしますか、という議論が必要なのです。

 ERPのようなシステムも、社内に存在する有象無象の情報を可視化することで、経営判断となる情報を提供しています。コンテンツというのは本来、それだけで価値を創出できるもので、それは個人でも企業でも変わらないのです。これからの時代を生きる企業において、コンテンツは「あればいいね」ではないのです。コンテンツは存在しており、それが企業の収益につながるということに気づくことが重要です。

ITmedia フルデジタルやテープレスといった要素は、企業がコンテンツをクリエイションしていくのに重要なポイントであり、それらのノウハウが豊富な欧州にサイレックス・メディアを設立した意義は分かります。では、この3月に米国に設立したSiliconLIVE USAはどういった意図があるのでしょう。

和泉 ソフトウェアの技術で考えれば、米国に見るべきものはまだまだ多いです。YouTubeしかり、Googleしかり。これまで、日本SGIは米SGIの中にオフィスを構えて活動していましたが、ここ1年でもAdobe、米ZipLip、英Gordano、米ONStor、米GraphStream 、加CICなどと業務提携を行いましたが、やはりきちんとした形でアンテナを米国に張っておく必要を感じています。

日本SGIはイノベーションを起こせるか

ITmedia 日本SGIが説くコンテンツの重要性に気がつき始めた企業も増えていますが、まだまだ市場で認知されているとは言い難いところがあります。それをどう広めていくつもりですか。

和泉 1つ1つ事例を作っていくことです。これまでの経験からPCにしてもネットワークにしても、先進的な事例が積み重なってある臨界点を超えたときに爆発的に普及しています。おっしゃるとおり、確かにコンテンツの重要性について、意外と企業は理解されていないケースもあります。ただ、ERPやCRMもその登場当時は、最初の1〜2年は、皆さん大変な思いをして導入されたものです。その1〜2年に相当するのが今なのでしょう。

 そうした意味では、今年度の日本SGIには、「結果を出す」ことが求められると考えています。これは何も売り上げを達成しようとかいった話ではなく、過去に言ってきたことを現実にするだけのプランも準備も整ったので、確実にエクスキューション(実行)していこうということです。

ITmedia 臨界点が近いとすると、当然そこにはビジネスになると考えるプレイヤーがどんどん名乗りを挙げてくることでしょう。先ほどYouTubeの話が出ましたが、こうした市場にGoogleなどが進出してくることも考えられます。多くの優秀な開発者を抱え、イノベーションも生み出し続けるGoogleに日本SGIは勝てるのですか?

和泉 多くのプレーヤーが参入してくることは、市場からするとよいことです。Googleについて言えば、YouTubeも取り込むなど、コンテンツが主役の時代においていい位置にある企業だと思います。ただ、日本SGIがGoogleに勝たなければならないかといえば、必ずしもそうではないでしょう。わたしたちの強みというのは、何も社内に限定したものではありません。スパコン関連のビジネスを手がける中で築かれた産学連携の力こそわたしたちのイノベーションの源泉といってもいいかもしれません。日本SGIはいろいろなビジネスに手を出しているように映るかもしれませんが、何のことはない、日本SGIの後ろには、研究室などで最先端の研究に携わる先生方がおられるわけで、そこから生まれる技術にマーケッタビリティ(市場流通性)を持たせるのが産学連携における日本SGIの姿なのです。

Wiiとの符合

ITmedia ロボットやセグウェイなど、一見「コンテンツの時代」に関係しないようなビジネスも日本SGIは手がけているわけですが、これはSiliconLIVE!と切り離して考えればよいのですか。

和泉 「あれ(セグウェイ)は和泉の娯楽なのか」と言われることもあり(笑)、なかなか一般には理解されていないようですが、日本SGIのカテゴライズでは、ロボットもセグウェイも「ユーザーインタフェース」なのです。先ほどMEXの話で、エンドユーザーまでの線、といった表現をしましたが、では、エンドユーザーとそうした線はどうやってつなぐのでしょうか。そこには当然ユーザーインタフェースが必要となるわけです。PCの登場以来、わたしたちはマウスやキーボードといったインタフェースにいわば「従属」してきましたが、今後もそうである必要はないのです。声や身体の動きなど、ユーザーに応じた最適なユーザーインタフェースがあって本来しかるべきなのです。

ITmedia そうした意味では、任天堂のWiiに似たところがあるのかもしれませんね。SONYのPS3がバーチャルとリアルの融合を図ったものだとすれば、Wiiは自分の身体性をゲームの世界に取り込むというまったく逆のアプローチで勝負しています。

和泉 まさにそこです。任天堂はコンテンツが中心であることをよく理解しているわけです。彼らはWiiやNintendo DSによって、別段優れたグラフィックでなくとも、使い方次第でコンテンツというものはここまで活用できるのだというのを示したわけです。もちろんこれはPS3を否定しているのではなく、現実と見間違うほどの高精細なグラフィックなどが利用可能になることで、新しいコンテンツの価値も創出し得るのです。インフラ作りというのはコンテンツの時代にあっても変わらず進化しますが、今のインフラでも発想次第でさまざまなことができるということはWiiが証明したのです。


 コンテンツが中心の時代――デビット・モシュラの著書「覇者の未来」においてその到来が予言されたこの時代は、モシュラの予想より幾分早く到来しつつある。かつて時代の中心であったシステムやPC、ネットワークは、すでにインフラと化し、そうしたインフラの中を巡る情報にこそ意味があることに気がつき始めた個人や企業も少なくない。

 奇しくもこれは、戦国時代から江戸時代にかけての動きをなぞっているかのように思える。鉄砲の登場がそれまでの戦い方を大きく変化させ、江戸時代に入ると、知恵と情報を武器とする商人、そしてそれらをベースに価値を創出する芸能が時代を鮮やかに彩り始めた。コンテンツの時代とはすなわち、物量やスペックといった力学とは別次元において、有象無象の情報からその価値の本質をとらえた「見える化」を図り、さらにそれらのコンテンツを「魅せる」ことに重きを置く「芸の時代」と言い換えてもよいのかもしれない。

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