逆転の発想が生み出したSiliconLIVE! SQUARE――コンテンツ時代のイノベーション

「コンテンツが主役の時代」「企業が放送局になる時代」に向けた取り組みを推進する日本SGI。同社が先日開設した「SiliconLIVE! SQUARE」は、もはや技術ではなくコンテンツにこそ主眼が置かれるという日本SGIの変わらぬ主張が見て取れる。

» 2007年03月26日 08時00分 公開
[西尾泰三,ITmedia]

 日本SGIにとって2007年は勝負に出る年になるようだ。つい先日、米カリフォルニア州サンタクララに100%出資の現地法人「SiliconLIVE USA」を設立した同社だが、社名からSGIの冠を外してまでSiliconLIVE!を推していることからも明らかなように、「コンテンツ」すなわち、価値ある情報資産を企業自らが生かす時代をグローバルに向けて提唱していこうとしている。

 「コンテンツが主役の時代」「企業が放送局になる時代」に向けた取り組みにおいて、その必要条件は4つ挙げられる。まず、「コンテンツのアーカイブ」「コンテンツの発信」、さらにそれらの権利保護などを考慮した「コンテンツの保護」、そして、“見せる”ためのインタフェースとなる「コンテンツの魅せる化」である。SiliconLIVE!はこれらの4つを包括的にカバーするソリューションだが、このうち、「コンテンツの魅せる化」の部分について、先日注目すべき発表が日本SGIから行われた。対話型リッチコンテンツ統合プレゼンテーション環境を実現するソフトウェア「VizImpress enVision」を軸にした体感型の専用ショースペース「SiliconLIVE! SQUARE」を開設したのだ(関連記事参照)。このねらいをSiliconLIVE!事業推進本部副本部長の森田茂氏に聞いた。

森田茂氏 「今年のわたしのテーマは『驚きと感動を与える日本SGI』」と笑うSiliconLIVE!事業推進本部副本部長の森田茂氏

 「一昔前ですと、(日本SGIが)もともと強みを持っていたビッグデータのハンドリングという観点から、アーカイブや配信といった部分を起点としたビジネスをしてきました。しかし、インタフェースの部分にはFlashを用いたりと、まだ未整備な部分もありました」と森田氏。この逆転の発想、つまり、インタフェースとなる「コンテンツの魅せる化」の部分からアプローチし、そうした使い方があるということを顧客自身に認知してもらうことで、そこからアーカイブや配信といったビジネスにつなげようとするのが、SiliconLIVE! SQUARE設立の根底にあるという。

 「VizImpress enVisionは驚きと感動を与えるソリューションだと思っているのですが、お客様に実際に見ていただくと、多くのケースで『自社の場合はどういった感じになりますか』という相談を受けることになります。そこからわたしどものコンサルタントが販売戦略などを細かくお聞きし、最適なコンテンツ活用をともに考えていくというスタイルになります」

 すでに製造業で同ソリューションを導入した事例としては、マツダの販売会社向け商談支援システム「Visual IT Presentation」が挙げられるが(関連記事参照)、このほかの業種への展開も進んでいると森田氏は明かす。

 「金融業界や住宅関連、さらには医療、具体的なことはまだ言えませんが病床における提案が進行しています。病院のベッドサイドでタッチパネルモニタを用いたコンテンツ配信に注目している企業とともに、実証実験を進めているところです。この事例についても近いうちにお知らせできることでしょう」

 こうした提案を行う際、その都度機材を持ち込んで提案する方式では、効率が悪く、とは言え、その魅力を十分に伝えるには、やはり機材が必要であるという相反した事情がSiliconLIVE! SQUAREを設立するに至った理由であると森田氏は明かす。

 「持ち込みでもプレゼンテーションするのですが、やはり顧客の環境というのはそれぞれ異なるため、十分なものをお見せできないケースがありました。映像装置は皆さんお持ちですが、タッチパネルはそれほどお持ちではないので、結果、プロジェクターなどで説明することになり、インタラクティブ性を理解してもらえないというもどかしい思いをすることもありました。しかし、デモをしてほしいという声は非常に多いため、SiliconLIVE! SQUAREという専用ショースペースを用意し、実際に体感してもらうことで、その魅力を知ってほしかったのです」

幾つかの疑問

 しかし、いかにコンテンツが主役の時代とはいえ、SiliconLIVE!ソリューションはまだ十分に認知されたとは言い難い状況にあると記者は感じる。以下では、SiliconLIVE!やVizImpress enVisionに関する素朴な疑問を森田氏にぶつけてみた。

ITmedia VizImpress enVisionと同じようなことはHTMLベースもしくはFlashで作れるのではないですか?

森田 もちろんFlashでもできるかもしれません。ですが、VizImpress enVisionというのは、Flashも内包したコンテンツを、Webデザイナーが少ない労力でかつ自由度が高く作成できるという点が作成面でのポイントとなります。例えば、数百の動画を一画面内で見せるようなコンテンツを作るのに、その動画コンテンツのディレクトリを指定するだけでできてしまうのです。さらに、それらを配信するための技術はもともと日本SGIの得意とするところで、かなりインテリジェンスなものを用意していますので、

ITmedia Webのコンテンツを再利用するというわけでもありませんよね? 販売店などを多く抱える企業のような大規模なコンサルテーション案件であればともかく、役員へのプレゼンテーションのためだけに導入するには、費用対効果の面で二の足を踏んでしまうのではないですか?

森田 ブロードバンド時代とはいえ、現在のWeb用に最適化されたコンテンツが、そのまま高解像度な表示装置でその魅力を十分に伝えられるかという点は考えるべきでしょう。高解像度な表示装置にはそれにふさわしいビッグデータとそれをもっとも効果的に見せるための方法論が必要ですが、その両者をこれまでの実績から提案できるのが日本SGIなのです。

 もちろん、おっしゃるように役員へのプレゼンテーションのためにVizImpress enVisionが必要かという議論はあるかもしれません。しかし、その前段として、本当に自社の価値ある情報資産を活用できているか、また、それを効果的に他者に伝えられているかという点では、疑問の余地があるのではないでしょうか。

 費用対効果の面では、日本SGIが持つコンサルテーションのノウハウをドキュメント化するなどして、パッケージに含めつつ、プレゼンテーションなどの用途に特化したenVisionの簡易版――お試し版と言ってもよいかもしれませんんが――を用意して、高解像度が出力できるディスプレイと併せたセミカスタマイズ販売を行っていくつもりではいます。

ITmedia それはつまり、VizImpressイニシアティブの参画企業とパートナービジネスをこれまで以上に推進するという意味でしょうか。

森田 そういうことですね。VizImpress enVisionは少し前までVizImpressと呼ばれていたものですが、パッケージ製品をそのまま使っていたこともあり、システムインテグレーションの部分、例えば配信と連動させる部分で大変なところもありました。VizImpress enVisionになって、かなり日本SGIの意向をくんだ開発が可能となりましたので、ビデオ機能の部分でユーザーの要求に細かく対応しています。

 企業では、プラズマや液晶などをこぞって導入した時期がありましたが、実際のところ、そうしたディズプレイにつながるツールというものがあまり出ておらず、高解像度が無駄になっているようなケースも多々ありました。そうこうしているうちに、プラズマテレビのリプレイスの時期が来ています。多くの場合、プラズマテレビでは焼き付きがひどく、液晶へ乗り換えるケースが多いようですが、この機に先ほどお話ししたシステムインテグレーションも容易なパッケージ製品と併せて提案することで、パートナービジネスが進むと考えています。

ITmedia 最近では「双方向のデジタルサイネージ」というキーワードを打ち出していますね。デジタル技術を使い、タイムリーに映像や情報をディスプレイ表示する「次世代型インフォメーションシステム」に双方向性が加わることで、どういった展開が考えられますか?

森田 例えば広告の概念も大きく変わります。駅の広告を例に挙げましょうか。これまでですと、出稿した効果というのはあまり可視化できないものでした。双方向のデジタルサイネージでは、ビジネスタイムにはビジネスマン向けの広告を、夜には飲食店の広告など、時間ごとに合った広告を露出することが可能で、さらに、インタラクティブに触れることで、どの広告が効果があるのかということが一目瞭然になるのです。そうしたデータをロギングすることで、企業側からすると興味深いデータが得られることになります。

 SiliconLIVE! SQUAREにあるガラスウオールなどはさらに可能性を広げるものです。例えば、ショーウインドウをイメージしてみてください。店舗内にある商品がガラス越しに見えている。しかし、その価格などは見えていない。ガラス越しにその商品に振れてみると、その詳細な情報、例えば色違いのモデルや、ほかに人気のある商品といった情報をそのガラスに表示することもできるのです。夜になると、販売店は照明も落とされ、物寂しい印象がありますが、夜のショーウインドウをデジタルサイネージにすることで、新たな価値訴求も可能になるのです。

ブティックなどのショーウインドウにこうした双方向のデジタルサイネージが導入されたら……何気ない町並みが一変するかもしれない。森田氏は、「この情報が立体視できたり触覚などが加わったらどうなります?」と次の展開をにおわせる

 「言ってしまえば、VizImpress enVisionはコンテンツの二次利用を促進する“使い回しソリューション”」と森田氏は話す。そこではもはや、「コンピューターを使っているという意識ではなく、使いやすいツールがある、と言う理解でよい」とも。双方向のデジタルサイネージでは、もはや技術ではなくコンテンツにこそ主眼が置かれるという日本SGIの変わらぬ主張が改めて明確になった格好だ。

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