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» 2006年12月05日 08時00分 公開

カタログ図書館に見る老舗一次卸の矜持

創業116年の歴史を持つ老舗の一次卸である橋本総業。同社は“設備商品の流通をサービスを通じて、快適な暮らしを実現する”をミッションとし、単なる卸ではなく、住環境を創造していこうとしている。日本SGIの「VizImpress」をベースにしたカタログ図書館の導入は同社にとってどういった意味があるのか。

[西尾泰三,ITmedia]

 創業116年の歴史を持つ老舗の住宅設備機器類の専門商社(一次卸)である橋本総業が、ページめくり機能付き電子カタログシステム「カタログ図書館」を同社が運営する家づくりとリフォームの支援ポータルサイト「e-設備ネット」内に導入したのは2006年6月(関連記事参照)。日本SGIの対話型リッチコンテンツ統合プレゼンテーションソリューション「VizImpress」をベースにしたカタログ図書館が公開されて半年、同システムの導入は橋本総業の何を変え、何を変えなかったのか。同社でシステム事業部の事業部長を務める執行役員の橋本昭夫氏に聞いた。

橋本昭夫氏 橋本総業システム事業部事業部長の橋本昭夫氏。左はカタログ図書館内の1カタログ

仕入先と販売先の間で

 卸売業では珍しい総合商社型のビジネスを展開する橋本総業は、管材業界の卸ではよく知られた存在である。管工機材や空調機器、さらには住設機器などのメーカーから仕入れた商品を販売店などの2次卸に販売している。

 メーカーが提供する紙ベースのカタログを、2次卸や工事の施工業者や機材の販売店への販促活動に活用していたことはすでに記事として取り上げた。国内外約1300社の住宅設備機器メーカーや管工機材メーカーと取引がある同社の下に届けられるカタログは何百種類にも達するが、その数と情報更新の頻繁さから、十分に活用できていないことを橋本氏は明かす。

 「メーカーがかなりのコストを掛けてカタログを製作しても、中間の流通業者で止まってしまうことが多く、実際の工事を行う方などエンドユーザーに近い方まで新製品の情報などは行き渡っていないのが現状。社内について言えば、共用棚もすぐにあふれかえってしまい、東雲にある配送センター内に設置されたショールームにカタログセンターを設け、そこに置くなどもしているが、メンテナンスしきれていない」

 一方、同業界では比較的ITを積極的に取り入れている同社は、“住宅設備機材の価格.com”といったスタンスを狙う「e-設備ネット」をいかに見てもらう機会を増やすか、ということに注力してきた。上述のようなカタログの無駄も多く見られたこともあり、紙ベースで提供されていたコンテンツの電子化はかねてからの課題であったという。

 問題はその実装だった。PDFのソリューションでは、数年前の試行の結果、紙のカタログが持つ気軽な“パラパラ感”を再現できないという判断を下していた橋本氏。同氏によるとこうした電子カタログへの取り組みは韓国が進んでいるようで、韓国初のソリューションを販売する企業が幾つか橋本氏の下へ売り込みにきたという。VizImpressを引っさげて日本SGIが提案に来たのは「比較的後発だった」という。

 しかし結果としては日本SGIの提案を橋本氏は採用した。製品比較のポイントを「登録のしやすさ」と話す橋本氏。委託する形となる他社のソリューションでは、ワークフローが社内で完結しないため、頻繁に発生する価格の変更や新商品への対応などで迅速な対応が期待できない。ITにそれほど精通していない社員でも効率よく扱えるものの方が結果的には価値が高いと判断したという。

 現在では、社内で2名ほどが登録作業に従事しているという。作業もいたってシンプルで、PDFで送られてくるメーカーカタログを1枚ごとに分離、それをVizImpressのデータタイプに変換して登録するという流れだ。「紙のカタログをスキャンしてそれを入力データにすることもありますが、多くはPDFで提供されており、作業自体はそれほど時間が掛かりません。実際の作業はノートPCで行っているため、変換のところで多少時間が掛かる程度です」と話すのは、システム事業部営業サポートチームの井出陽子さんだ。

 カタログ図書館の開始以後、サイトへのアクセスも導入前の5倍近くまで伸びたという。もちろん、Yahoo!など検索エンジンからの誘導を図るなどほかの施策も行った結果ではあるが、販売先、仕入先、そしてエンドユーザーの3者にとって望ましい形でなってきていると橋本氏は笑みをこぼす。

 また、現時点ではWebアクセスログレベルだが、「カタログのどこを拡大して見たか」といったような、より利用価値の高いデータの採取も電子カタログの作成時にタグとしてデータ埋め込むことで実現できる。そして、それらのデータを住宅設備機器メーカーなどに対しマーケティングデータとして提供することで、メーカーのカタログ作りに役立ててもらう考えだ。

 「ITに弱い人が多い業界なため、比較的利用度をあげるのに苦労しているが、ペラペラめくるというのが使ってみようという意識を喚起させるようで、また、システム的にもそれほどハードルが高いものではないため、私たちがやればやるほど使ってくれる層は増えると考えている。全体としての満足度は80〜90%くらい」

卸の矜持

 とはいえ、同システムの導入による効果はなかなか測定しにくい面がある。ユーザーは比較検討ができるという意味で恩恵を受けられているが、業界のインフラに成長しないと、メーカーもカタログの配本量を減らすことはないだろうし、現状ではカタログ図書館が売り上げにどの程度貢献しているかも十分に可視化されているわけではない。

 しかし橋本氏は「これは設備投資」と話す。続けて、「卸というと、メーカーから仕入れて、それに何%かの利益を乗せて卸すもの。市場の好調さもあり、これまでは比較的受身でもビジネスとして成立していたが、今後、需要は横這いに推移すると見られ、プッシュ型の施策が必要となる」という。

 ピーク時には80兆円を超えた建設投資は、現在53兆円程度まで縮小している。このうち、管工機材1兆円、住設機器2兆円、空調機器2兆円の5兆円が同社の市場だ。すでに建材や電材の分野も一部取り扱いを始めるなど周辺分野の新規開拓も進める同社だが、過去50年ほどで住環境が大きく変化してきたように、これからも生活スタイルの変化は訪れることだろう。今扱っていないもので今後扱うことになる商材は増えることが予想されるが、そのときにカタログ図書館のようなコンテンツの活用方法が整備されていないと、新たな生活スタイルの創造などままならないばかりかその提案手段も持たないことになる。e-設備ネットやカタログ図書館は、業界全体での効率的な仕組みづくりに向けた仕組みの改善の1施策であり、それは卸としての付加価値を上げるための1施策でもあるのだ。

 橋本総業が仕入先や販売先など数百社のパートナー企業とともに組織している「みらい会」が毎月主催している業界でも最大規模のイベントである「みらい市」。7月に東京ビッグサイトで開催された「みらい市 2006」では、その入り口にリチウムイオン電池で走る8輪電気自動車「Eliica」が鎮座していたことをご存じの方もおられるかもしれない(関連記事)。慶應義塾大学電気自動車研究室が産学連携で取り組んでいる電力貯蔵用リチウムイオン電池の利用促進とそのための大量生産を行うための「L2(エルスクエア)プロジェクト」に参加、資金提供なども行っていることが縁となり展示につながったものだが、一見同社とは関係のない、こうしたプロジェクトに参加していることからも、同社が将来の住環境に関連してくるであろうものにいち早く目を付けていることが分かる。

 “設備商品の流通をサービスを通じて、快適な暮らしを実現する”をミッションとする同社。単なる卸ではなく、住環境を創造していこうとする企業の矜持がそこにある。

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