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» 2006年06月22日 08時03分 公開

Interview:企業は「見える化」から「視せる化」へ――日本SGIの和泉社長

独自に発展してきた放送と通信のテクノロジーが重なり合いつつある中、企業は放送局の機能を持つに至ると話す日本SGIの和泉社長。「見える化」から「視せる化」へ――この言葉に隠された謎について聞いた。

[聞き手:西尾泰三,ITmedia]

 これまで互いに発展を遂げてきた放送と通信のテクノロジー。USENの「GyaO」に代表されるように、放送法の規制を受けないサービスも出てくるなど、放送業界の枠組みは根底から大きく変わる時期に来ている。

 両者は今、「融合」の時代に入ったとよく指摘される。しかし、放送と通信の世界を長年見てきた日本SGIの代表取締役社長CEO、和泉法夫氏は、「融合はしない」と断言する。異なるテクノロジーが重なり合うとき、何が起こるのか? 同氏に聞いた。

和泉氏。ソニーとの関係と、コンテンツの再利用性の向上というキーワードでPS3関連で何かアクションはとの質問には、「あるかもしれない。少なくともわたしはCellに非常に興味を持っている」と話す

ITmedia ここ半年、いや3カ月で見ても、日本SGIからは大きなニュースが相次ぎました(関連記事参照)。かなり手広くやっているという印象も受けましたが、それらの発表に共通する柱とは何なのでしょう。

和泉 このフェーズになると、大体の謎解きはできるものですが、いずれの発表もコンテンツが主役であると理解していれば氷解する内容であり、わたしたちがやってきたことは何もブレがありません。米SGIがChapter 11を申請したことも想定内と言えば想定内でした。むしろ日本SGIにとっては幸いしたといえるかもしれません。。

ITmedia 米SGIの話は想定内だということですが、日本SGIにとってはどう影響してくるでしょうか。

和泉 どうも日本では米連邦破産法第11条(Chapter 11)に誤解があるようですが、あれは戦略的な企業を再生するために作られたもので、ファイナンシャルリストラクチャーではなくフィナンシャルリエンジニアリングなのです。

 特に、米SGIの会長兼CEOであるデニス・マッケンナ氏は再生のプロフェッショナルです。彼とともに日本の顧客を訪問して回ったのですが、それを強く実感しましたね。彼はアドレスしているところがいいから、今までから比べたら間違いなくよくなるでしょうね。

 今回の一件で言えるのは、日本SGIがジム・クラークのDNAを受け継いだことがより鮮明になったことでしょうか。これを端的に示しているのが、この4月に発表したサイレックス・メディア(Silex Media)の設立です。

 サイレックス・メディアの前身は、SGI欧州において独立したP/Lを持っていた放送事業部門のビジネスユニット「Silicon Graphics Broadcast Europe」でしたが、このユニットは2004年に、当時米SGIのCEOであったロバート・ビショップが日本SGIの成功を見て、1つだけヨーロッパに特区を作ろうという流れで設立されたものです。日本SGIとよく似たビジネスモデルで展開していたわけですが、新しい米SGIの戦略の下では、残念ながらリストラの対象です。このため、日本SGIが実にフレンドリーな流れで受け取ったのです。

ITmedia サイレックス・メディアの設立で何が変わってきますか?

和泉 欧州の放送局は今、ワークフローを極限まで効率化しています。テープレスで撮影した瞬間にアーカイブされるような仕組みにすることで、迅速にコンテンツをクリエイションし、かつ、その二次利用、三次利用を可能にしています。

 日本ではワークフローにたくさんの人が介在しています。もちろん、日本の放送局は欧州と比べて規模が大きいですので、ワークフローを改善するというのも問題はそう簡単ではないのだ、という話になるのですが、放送業界のあり方も大きく変わっていく中、企業がIT化によって人員の再構成を求められたのと同様の動きが求められてくるでしょう。中間搾取をなくし、合理化する――そこにフィットするソリューションが欲しかった、というのが実情です。当然、欧州に進出するなら、次はアメリカ、となるかもしれません。日本SGIから日本という言葉を取ることもあるのかもしれないですね(笑)。

ITmedia サイレックス・メディアについては、3月に第三者割当増資で約10%の出資を行ったソニーと連携するとありますね。ソニーの強みをどう見ていますか。

和泉 放送業界について言えば日本が先行するHD(High-Definition)のリーダーであるということでしょう。また、企業としての総合力がありますね。先の話で言えば、放送業界だけでなく、非放送局、つまり民間企業に大きなポテンシャルがあると見ているため、広がりを持った展開が可能になると思っています。

「見える化」から「視せる化」へ

ITmedia 5月にはマツダの「商談支援システム」として社内のコンテンツを活用しようとする発表をしていますね。これがその先駆けですか?

和泉 企業が放送局になっていく、ということです。問題の解決を図る施策として、いまではトヨタの強みとしてよく引き合いに出される「見える化」、つまり、問題点を常に「見える」ようにしておく工夫がありますよね。コンテンツの世界でこの「見える化」を実践するとどうなるか、それは、「視せる化」への昇華です。企業は自らが持つコンテンツを自らが正しく迅速に伝え、それにより新たな価値を創造していけるようになるわけで、言わば、企業が放送局のような機能を持つに至るのです。ビジネスを行ううえで、この「視せる化」が重要なファクターになることが分かるでしょう。

 わたしたち日本SGI、さらに言えばその精神の根幹であるジム・クラークが取り組んできた「可視化」が研究所などハイエンドな領域だけにとどまらず、一般のビジネス領域においても重要となってきたのです。

ITmedia 企業が情報を自ら発信するようになると、CMがイメージ広告以上の意味を持たなくなるため、放送業界からすると好ましくないかもしれません。

和泉 すでに欧州の放送業界においては、コンテンツ作りと電波発信の分離が進んでいます。日本でもSKY PerfecTV!の「ジャパネットスタジオ242」などに見られるよう、企業がチャンネルを買って自社のプロモーションを図ることは珍しくなくなりつつあります。結局のところ、電波を使う放送は、エリアの制限があるが、インターネットのように帯域に縛られることなくあまねく発信できますし、インターネットはその逆ですよね。つまり、通信と放送の融合などという話は本来起こり得ず、単に連携しシームレスになっていくだけであり、企業が自ら情報発信するようになったとしても、そのことで放送業界が衰退するわけではないでしょう。ただし、生き残るためにはかなり思い切ったことをやらないと生き残れないのかもしれません。それはワークフローの改善であったり、アーカイブの再利用効率を高めた柔軟なコンテンツであったりするのでしょう。

ITmedia わたしが思うに、SiliconLIVE!というのは、ソフトウェア開発においてIBM Rationalが再利用効率を高めたのと同様の施策をコンテンツの世界に持ち込んだものだと言えるのではないかと思うのですが。

和泉 確かにそのように言えるかもしれません。これまでは、クリエイションの世界、アーカイブの世界、といったように、それぞれが分離したものとして考えられていました。しかし、1つ1つがどんなに優れていても、二次利用もできないようなアーカイブをしていても意味がないでしょう。最大限に活用しようと思うのなら、コンテンツのライフサイクル全体で考えなければならないのです。

 CIOは社内の効率化を考えてきたが、これからはいかに売るか、それのためのシステムはどうあるべきかを考えるフェーズにきています。

 かなり昔ですが、Webの開発者というのは、メインフレームなどの技術者からすると格が下のように思われていました。しかし、現在ではその重要性は誰の目にも明らかですよね。これと同様に、現在クリエイターが置かれているポジションが今後、より企業の中核に入っていくことになるでしょう。

 実際に企業のトップの人間と話をしてみると、企業が発信する時代であるということをトップが理解し始めた印象があります。日本SGIが資本構成を現在のような形にしたのも、こうした時代が到来したときにわれわれの力だけではとても足りないからです。需要に対して応えられる陣容を整えておく必要があるのです。

ITmedia 4月に行われた「VizImpress ビジネス・パートナー・フォーラム」では「Web3.0の時代を作り上げる」とありましたね。

和泉 あれは冗談ぽく話しましたが、本気でWeb3.0を体系立てていく必要を感じています。Web2.0はGoogle、Amazonの時代と言ってもいいでしょう。彼らによってコンテンツの重要性ははっきりとしたものとなりました。しかし、その先も当然続くのです。新しい時代はGoogleのように検索ではなく、可視化されたコンテンツを基盤とするものになるでしょう。そのうちWeb3.0をきちんと定義できるように理論武装しますよ(笑)。

 いずれにせよはっきりとしているのは、テクノロジーに裏打ちされないビジネスモデルでは生き残れないということです。人さまのインフラやテクノロジーを流用しただけのビジネスモデルは今後淘汰の時代へと移るでしょう。

6月28日には東京・恵比寿で「SiliconLIVE! フォーラム 2006」が開催予定となっている。セッション1では、今回和泉氏が語った内容が、ベンダーとクリエイターの両方の視点で語られることだろう。そのほかのセッションも、J-SOX法への対応やビジュアルによるデータマイニングに関する話題を扱うなど、注目したい内容が詰まっている。


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