Debianプロジェクトの新リーダーSam Hocevar氏に対する初インタビューFocus on People(2/3 ページ)

» 2007年05月06日 07時00分 公開
[Bruce-Byfield,Open Tech Press]
SourceForge.JP Magazine

LC 新たにパッケージメンテナとなる人々をDebianプロジェクトに参加させるまでのプロセスとしては、どのようなものを想定しておられますか? その構想を軌道に乗せるまでの具体的なステップは、どのようなものになるでしょうか?

SH 新しいメンテナの育成プロセスは、十分に時間をかけてメンテナの意欲を引き出すことを想定しているので、多くの方々からの指摘にある通り、このプロセスはかなりのスローペースで進捗することになるでしょう。

 そうした中でも一番の長時間を要するステップの1つは、Debian Account Manager(DAM)による承認待ちの時間でしょう(Debian憲章の規定では、メンバーのプロジェクトへの参加にはDAMの承認が必要とされています)。その意味で、DAMの要員ないしはDAMの作業時間をより多く割り当てる必要があると思っています。かつてのリーダーたちもそうでしたが、こうしたプロセスの効率についてはさまざまな改善が試みられており、そうしたプロジェクトはわたしも引き継いでいくつもりです。

 残念なことに新規のメンテナチームについては、順調な滑り出しを迎えているとは言い難い状況です。現状において大半の時間がApplication Manager(AM)の任命待ちに費やされているのが実際ですが(任命後AMはプロセス全体を通じて応募者のフォローアップを行います)、AMという役職をこなせる人材は一朝一夕に育つものではありませんから仕方ないのですが。彼らの負担を減らすには、現行の仕事の進め方をもっと調べる必要があると思っており、それには例えば、応募者の支援者サイドによる理解を深め、応募者たちには新規ソフトウェアのパッケージ管理に従事するよりも先に既存チームの支援に回ることを承知してもらわなければならないでしょう。

LC 先の公約では、アシスタントの増員にも触れておられました。それはどの分野についてのお話なのでしょうか? その件に関して何らかの反発を招く危険性は想定しておられますか? これは一般決議による裁可を必要とする役職なのでしょうか?

SH この場合に主として想定しているのはコアチーム(FTPマスタ、Account Manager、System Administrator)に関するものですが、より一般的なメッセージとしてわたしからお伝えしたいのは、Debianに貢献する意思はあるがそれだけの権限を与えられていないという方がおられたら、わたしどもに相談して頂くことで何か適切な貢献法を見つけられるかもしれないということです。

 またこの構想に関しては、何らかの反発を招くだろうことは覚悟しています。むしろこうした“何らかの反発を招くだろう”という発言そのものが、また別の反発を招くこともあり得ます。既存のスタッフをすげ替える形で未経験の人材を充てるような事態を避けるには、人間関係に配慮した上でねばり強く意見交換を進める必要がありますが、そうした作業には必然的に時間が掛かるものです。1つハッキリしているのは、わたしは何も小ぎれいなWebサイトの整備を呼びかけたおかげで選出されたのではなく、先に挙げたもろもろの問題を解決するために選ばれたのであって、わたし自身としても現状を放置して悪化するに任せるつもりはないということです。

LC 選挙時の公約では、テクニカルライタやアーティストなどメンテナ以外の人材をより多数Debianに参加させることも謳われておられました。この件に関しては、どのように進めていくおつもりでしょうか?

SH そうした人々にはNew Maintainerのプロセスに進んでもらうつもりであり、その際にはTasks and Skillsのテストステップ(それほど時間のかかる課程ではありませんが)は免除させて、パッケージのアップロード(これは開発者の行う活動の中でも特に信頼を必要とするものです)にも従事させないということを構想していました。またこの件に関連して、当方のPGP Web of Trust(PGPの信頼性に関するWeb)をロールベースで運用するための新規ツールが開発中で、これが完成すれば、特定のロールが与えられた者についてはアップロードを禁止させるといった措置が比較的簡単に行えるようになるはずです。

LC こうした構想の多くについては、多数のプロジェクトメンバーによる協力態勢を整備する必要があるよう感じられます。そうした協力者としては、現状でどの程度の人員を募っておられるのでしょうか? 人材を見つけるためには、どのような手法を採用しておられますか?

SH そうしたサポート要員としては、非常に多数の人材が集まっています。選挙結果が公表されてから24時間もしないうちに、多数のプロジェクトメンバーから協力の申し出を受けておりますが、そのほかにも、Web開発者、グラフィックデザイナー、Bugzillaのバグトラッキングシステムの関係者といった、プロジェクト外部の人々からもいろいろとアドバイスを頂いております。

 思うに、必要な人材は既に手元にそろっているのであって、問題は彼らがフラストレーションを感じることなく作業できる環境を整備することであり、自分たちが行う仕事が無為に終わることなく実際に活用されると得心できるようにすることではないでしょうか。そうした環境を作り上げるには、単に作業に必要な人間を集めるだけではだめで、プロジェクト全体が過度に保守的な雰囲気に陥らないようにして、変化を受け入れる態勢を整える必要があるはずです。

LC お話をお伺いしていると、特にUbuntuと比べた場合、Debianにはイメージ的な問題を抱えているよう感じられるのですがどうでしょう。そうした問題については、何か対処策を講じておられますか?

SH Debianというオペレーティングシステムは、その安定性や技術的な完成度には定評がある一方で、非常に素っ気ない作りのインストーラしか装備されていない点などから、使い手を選ぶエリート主義に走っているというレッテルを以前からはり付けられているようです。そうした悪評はSargeのリリース時点で陳腐化しつつあるもので、例えばEtchには機能と操作性に優れた実用的なグラフィカル系インストーラが装備されていることからも分かるように、常に改善は施されています。とは言うものの“ユーザーフレンドリー性に欠けた無骨なディストリビューション”というイメージがいまだ払拭されていないのも確かな事実です。

 これはわたしが過去に指摘しておいた主張ですが、こうしたイメージ問題を引き起こしている要因はDebianプロジェクトのWebサイトやバグトラッキングシステムといった部分にあるのであって、Ubuntuに転向した多数のエンドユーザーにとっては訴えかける力が乏しかったのでしょう。実際、わたしどものWebサイトはダイナミック性に欠けており、さまざまなリンクは用意されているものの、それを積極的に利用してもらうためのサポートが不足しています。例えば、自分たちで作成したシステムのスクリーンショットでも配置しておけば、それだけでも印象はかなり違っていたはずです。こうしたWebサイトの再編を始めとした基本的なインフラストラクチャの整備は既に作業が進行し始めています。

 またDebianに悪いイメージがつきまとっている原因としては、メーリングリストでの論争が炎上しやすいためだという指摘も出されています。わたし自身、それが真実であるのかを検証したことはないのですが。

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