「ネットカフェ難民」問題と「浮気ケータイ」登場から考えること情報ツールと人格〜ネットカフェから「2in1」へ

NTTドコモは番号ポータビリティによる「敗戦」の巻き返しを図るべく「浮気ケータイ」なるものを創出した。それは「ネットカフェ難民」の問題とともに、情報ツールと人格の関係を浮き彫りにするものではないか――。

» 2007年06月11日 07時00分 公開
[成川泰教(NEC総研),アイティセレクト]

 ネットカフェ難民の話(6月5日の記事参照)を、生活者と情報のかかわりという視点から興味深く感じているのは、最近のネットカフェ事情に見られる現代人にとっての情報や情報ツールの位置付けに、微妙な変化が起こりつつあるということに気付いたからである。その変化は、日ごろインターネットの領域を中心に市場をウォッチし、その重要性が着実に増大していると考えている立場からすると、少々異質なもののように思われた。

 ネットカフェはもともと、生活者が自宅や職場以外の場所で気軽にネットを利用できるという環境を整え、そこに付加的にドリンクなどのサービスを供したのが始まりである。当時はインターネットを体験できる環境の整備がまだ十分ではなく、それ自体を提供することに経済的対価を求めることで十分ビジネスとして成立した。

 しかし、携帯電話も含めたネットの普及率が7〜8割にまで達した現在、街中でその利用環境に人々が感じる「ありがたさ」とは、果たしてどれほどのものなのだろうか。恐らくそれは、一昔前に比べて確実に小さなものになっているのではないだろうか。そう考えてみて、あらためて自分自身が、ネットカフェというものをほとんど利用していないことに気付くと同時に、現在のネットカフェといわれるものの実際の姿もあまり知らないということを悟った。

ネットカフェでのインターネットの位置付け

 現在の日本では、一口にネットカフェといっても業態の複合化がかなり進んでいる。特に都市部ではマンガ喫茶や個室ビデオといった店舗でも、ネット環境のサービスが標準で提供されているのが普通である。逆にインターネットカフェと銘打っている店舗でも、報道されているように、マンガや雑誌、DVDなどと共にさまざまな「暇つぶし」手段の一つとしてインターネットが提供されているのが実情である。また地方都市では、いまだにゲーム喫茶や無許可の風俗店など非合法事業がネットカフェの看板を隠れみのに運営されているケースも珍しくない。

 こうした状況を考えると、インターネットが現代人の日常生活における必需品としての地位を確保しつつあるのとは裏腹に、その存在は自宅の(あるいは自室の)ノートPCや携帯電話に象徴されるように、極めてプライベートな意味合いを強めていることが分かる。その一方で、ネットカフェに象徴される公衆利用のインターネット端末は、もはや「暇つぶし」の情報端末としてテレビやビデオ、マンガなどと同列に位置付けられつつあるというのが現状である。これは携帯電話の普及で公衆電話の設置台数が大幅に減少したことに似ている。

ドコモの新サービスが示唆するもの

 さらに5月の大型連休前、携帯電話の世界では、減少し続けるシェア奪回の秘策としてNTTドコモから「2in1(トゥーインワン)」という名の新サービスが発表された。従来からあるマルチナンバーサービスを強化し、端末側にその機能を組み入れたものである。これを使うと利用者は、2つの電話番号を1台の端末で目的に応じて自由に使い分けられる。

 使い方はさまざまだろうが、一部で「浮気ケータイ」というあだ名がつけられているのは、生活者がこのサービスに対して抱く印象を象徴しているといっていいだろう。

 筆者自身も発表を聞いて、企業戦略として「なるほどその手があったか」と納得したが、すぐにそれが、ITを通じた生活者の情報利用のあり方という意味では一つの変局点を象徴しているのではないかという、漠とした不安を交えた感覚を抱くようになった。あくまでも使い方は利用者次第なのだが、従来から情報通信利用において存在したある種の道徳や倫理についての問題に、このサービスはキャリア側自らがある一線を越えてオーソライズしているかのように思えたところに、その直感の本質があるのだろう。

 情報技術の進展において、一人の人格というレベルにまで細分化されてきたことを象徴するのがネットカフェの現状であるとすれば、携帯電話の新しいトレンドはその人格をさらに分化して進もうとしているように思える。われわれはその先にある社会、そして人間の姿について考えなければならないのだろう(「月刊アイティセレクト」掲載中の好評連載「新世紀情報社会の春秋 第十六回」より。ウェブ用に再編集した)。

なりかわ・やすのり

1964年和歌山県生まれ。88年NEC入社。経営企画部門を中心にさまざまな業務に従事し、2004年より現職。デバイスからソフトウェア、サービスに至る幅広いIT市場動向の分析を手掛けている。趣味は音楽、インターネット、散歩。


関連キーワード

ネットカフェ | 2in1 | NTTドコモ


Copyright© 2010 ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

注目のテーマ