第1回 パソコンが売れなくなったのは「ウェブ時代」だから…か?パソコンの存亡

PC市場は、そのスピードこそ落ちているとはいえ、世界的には伸びているとされる。ただ、国内の、デスクトップPCなどコンシューマー向け市場では不振が続いている。その背景にあるのは……。

» 2007年04月23日 11時27分 公開
[成川泰教(NEC総研),アイティセレクト]

市場の先端で行き詰まるPC

 調査会社が推計する世界全体のPC市場は、昨年も、若干の減速は見られたものの前年比10%前後の伸びを記録した模様だ。最近までPC市場をけん引しているキーワードとしては「新興国」「中小企業」「ノートPC」の3つが挙げられる。この大きなトレンドには当面変化はないと思われる。

 しかしその3点をよく考えてみると、いずれもこれまで普及が進んでいなかった市場や領域において、価格低下を中心とする要因とベンダー側の開拓努力によって市場が拡大したというのが背景にあることが分かる。別の言い方をすると、市場は、量的な拡大はできているものの、質的な側面では需給のバランスがうまくミートしておらず、その意味での成長は頭打ちになっている感がある。デルやHP、レノボなどの海外大手ベンダーにおいては、ノートPCとサービスを中心とするビジネス市場へのシフトが鮮明である。

 国内市場に目を向けるとその点はさらに明確になる。小売店でのパソコン販売データを見ると、台数、金額とも前年を下回る状況がここ数年続いている。特にデスクトップPCの状況は惨憺たるものである。

 家庭向けのデスクトップ商品といえば、地上デジタル放送や録画機能に対応した、いわゆるAVパソコンが主力商品になっているわけだが、薄型テレビやDVDレコーダなどのAV専用機、あるいは家庭用ゲーム機などとの争いでは、PCの分が悪いことを指摘する意見は多い。シェア変動という意味での各社の一喜一憂はあるものの、市場のボリューム全体が地盤沈下を続けることに対する危機感はいまや共通のものとなっている。

ウェブがもたらしたPCへのニーズの変容

 しかしコンシューマー向けPCの不振は、必ずしも家庭におけるPCの利用が減っていることを意味するものではない。なぜなら、この間のインターネット利用の成長スピードが一向に衰えていないことは、いろいろな指標から見て明らかだからだ。過去5年で考えても、検索やECを中心に利用は順調に拡大している。最近ではブログやSNSなどに代表されるCGMサービスやユーチューブなどの動画配信、あるいはネット証券など金融系サービスに至るまで、その幅はさらに広がっている。

 余談だが、最近あるところからの依頼で生活者のインターネットサービスに関する利用状況を調査した際、こうしたいろいろなサービスの中でもインターネットバンキングの普及率が飛び抜けて高いのが目を引いた。これについては公式の統計がないので以前からどの程度の利用者がいるのか気になっていたのだが、改めてインターネット利用の層が厚く、深くなっていることを実感した。

 いまや家庭でのパソコンの利用目的の大部分を占めるのがインターネット利用ということになっている。既にメールやニュースなど一部の機能は携帯電話に移行しつつあるが、その一方で、ワープロや年賀状、家計簿、ゲームといったかつてのパソコンの人気アプリケーションそのものが、ウェブ上のサービスにどんどん取り込まれているのも事実である。

 こうしたアプリは、PC側での処理負担を軽くする代わりにサービスの主体をサーバ側で実行するシステム構成になっているため、クライアント側では、最新のブラウザが動作すればさまざまなサービスやアプリケーションが楽しめるという状況になった。その結果、これまでのPCで求められてきた性能の向上に対するニーズが、ある意味でサーバ側に吸収されてしまった形になっている。これが日本など先進国を中心にした現在のPC市場において、重要な意味を持つ側面になっている(「月刊アイティセレクト」掲載中の好評連載「新世紀情報社会の春秋 第十四回」より。ウェブ用に再編集した)。

※本稿の内容は特に断りのない限り2007年3月現在のもの。

なりかわ・やすのり

1964年和歌山県生まれ。88年NEC入社。経営企画部門を中心にさまざまな業務に従事し、2004年より現職。デバイスからソフトウェア、サービスに至る幅広いIT市場動向の分析を手掛けている。趣味は音楽、インターネット、散歩。


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