「中小は盤石」「中堅で猛追」の大塚商会「勝ち組」ERPベンダーの戦略を探る

中堅ERP市場においてトップの富士通をわずかな差で猛追している大塚商会。今回はその大塚商会の強みとその戦略について解説しよう。

» 2007年06月20日 12時58分 公開
[河田裕司,ITmedia]

 大塚商会はERP製品では「SMILE α AD」をコアユーザーである中小企業向けに、そして中堅企業には「SMILEie」を提供している。中堅と中小企業と明確に販売ターゲットを分けてアプローチしているのが大塚商会の特徴だ。中堅、中小ともにその営業力を背景に着実に成長してきている。

 まずは中小企業向けの「SMILE α AD」から見ていくことにしよう。

 「SMILE α AD」は年商50億円以下の企業をターゲットとしており、2006年の売上高は89億円、2007年の見込みは92億円となっている。大きな伸びはないが、シェアはしっかりキープしている。

ERPパッケージライセンス売上高シェア(出典:ノークリサーチ)

 図1のように、年商50億円未満の市場では38.5%と2位のMJSLINKに21.5ポイント差をつけて圧倒的なシェアを獲得している。明確な景気回復とはいえない中小企業市場において、継続的な営業・サポートで、既存顧客との関係を保ちながら需要を掘り起こし、セミナーやイベントなどで新規顧客を獲得するという「地道な戦略」が功を奏しているようだ。

 加えて、大塚商会は非常に多くの商材を取りそろえていることもこれを助ける強みと言える。「たのめーる」がドアオープナーとして機能していることだ。

 「たのめーる」は、コピー機、社内のネットワーク機器やPCなどからオフィスの必須用品のすべてをインターネットから注文できるサービスだ。これにより、直販の営業やサポートサービスに加えて、オフィスに関わるすべてを取り扱う「専門商社」として、大塚商会の中堅・中小企業への浸透度をさらに強めている。

 多彩な商材を通して行われた商談や訪問内容は、SPR(Sales Process Reengineering)と呼ばれるデータベースに格納されていく。ユーザー企業の基本情報(企業概要、導入IT実態など)に加え、これら情報を付加することで、CRM(顧客管理)とSFA(営業支援)を一体化したシステムとして営業マンは効率的な営業ができる仕組みを整えている。

 さらに、このSPRには取り引きのない新規見込みユーザーの情報も登録されており、地域や業種、規模などでニーズを絞り込み、セミナーやイベント情報を提供して新規顧客の開拓につなげている。その結果が「SMILE α AD」の販売実績に大きく寄与している。

 大塚商会の中小企業向けERPでの強みは、このような取り組みを通じて中小企業の本当のニーズを理解している点にあるわけだ。

第3位オービックを射程にとらえた中堅戦略

 続いて、「SMILEie」の実績を見てみよう。

 同製品は特に年商100億円〜300億円の中堅企業にフォーカスしたERP製品だ。2006年は前年度比13.7%増で売上高29億円、2007年は17.2%増で売上高34億円となっている。

 年商100億〜300億円未満の中堅ERP市場では、トップ3社の富士通(24.6%)、住商情報システム(12.9%)、オービック(9.3%)に次いでシェア4位(6.8%)に入ってきている。

 この伸びの要因は、業種別テンプレートを活用したインダストリー別の営業や、セキュリティ・内部統制などの周辺ソリューションを同時に提案する複合的な提案も理由の1つとなっているといえるが、このような戦略は他のERPベンダーも行っている。大塚商会が伸びている最大の理由は、大塚商会のシステムインテグレーターとしての実力の向上と言えそうだ。

 大塚商会は中小企業に強いことは衆知の事実だが、その半面大企業にはリーチできていないというのが弱点だった。実際には中堅・大手企業にもアプローチをかけてきたが、なかなか実績に結び付いていなかったのだ。

 そこに中堅企業をターゲットした「SMILEie」を攻略の「玉」として着々と導入事例を重ねた結果、システムインテグレーターとしての実力も認められ、現在では中堅ERP市場でシェア4位という実績につながっている。トップ2社には及ばないものの、3番手のオービックは射程圏内にとらえている。

 現在、市場には多くのERPパッケージが存在しているが、各製品とも機能面で大きな差が少なく、パッケージ製品としての差別化は難しい。その中で「SMILE α AD」は「SPRを活用した抜群の「営業力」、的確な「提案力」、そして全国展開していることによる「サポート力」の3つを武器に中小企業市場トップという地位を堅持している。

 一方で「SMILEie」は中堅企業市場においてフォロワーの存在だが、確実に足場を築き始めている。今後も目が離せないパッケージだ。

大塚商会のERPターゲット 大塚商会のERPターゲット

 次回は、ERP市場の老舗「ProActive」を持つ住商情報システムの戦略を解説する。

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 この連載はノークリサーチの「06年版中堅・中小企業向けERP市場の実態と展望」の調査レポートもとに、リサーチャーが加筆、考察した。詳細は同社サイトを参照のこと。


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