OLS 3日目:シンクライアントとOLPC(1/3 ページ)

Ottawa Linux Symposiumの3日目、LTSPというシンクライアントによるローコストなインターネットの普及を目指すプロジェクトや、OLPCプロジェクトの最新動向についての講演に参加した。

» 2007年07月10日 13時00分 公開
[David-Graham,Open Tech Press]
SourceForge.JP Magazine

 OLS(Ottawa Linux Symposium)3日目にはジョン・“マッドドック”・ホール氏の講演があった。ホール氏は、今現在よりもさらに10億人の人々をインターネットにつなげるための低価格で環境に優しい方法としてLTSP(Linux Terminal Server Project)を第三世界に広めるという同氏の夢について語った。またそのほかにも、OLPC(One Laptop Per Child)プロジェクトの近況報告を含む幾つかの講演が行なわれた。

 「シンクライアントの大きな成果――実現までの道程」と題されたホール氏による午後のセッションは非常に盛況だった。ホール氏はまず始めに、商標に関する免責事項を述べた。幾つかの商標に関する注意事項とともに、とりわけLinuxはリーナス・トーバルズ氏の登録商標であるということを聴衆に伝えるようにとホール氏自身の弁護士から言われているのだそうだ。

 ホール氏は、まだコンピュータが巨大で高価なメインフレームだった時代の1969年からコンピュータにかかわっている。ホール氏によると、真夜中に作業することがプログラマーの習性となったはこのころだという。その理由は学生たちがメインフレームを使用できたのが、教授たちが使用していなかった時間帯である深夜だけだったからだと(真偽のほどはともかく)やや冗談っぽく話した。

 その後やがてミニコンピュータとタイムシェアリングが登場し、コンピュータにはオペレーターがついていて、端末ユーザーは、定期的にバックアップを取ったりする作業やミスをしたときに復旧させたりする作業に関して、オペレーターたちに頼っていたという。タイムシェアリングコンピュータでは、多過ぎる人数のユーザーが使用していることもあった。そしてそのことは、5文字続けて入力したときに数秒たってからその5文字全部が一度に返ってくるという現象からうかがい知ることができたという。

 そして最後にパーソナルコンピュータが登場し、それ以前のコンピュータとは異なり、ほとんどの時間アイドルして、大量の電力を消費し、騒音を出すようになったという。ちなみにフランスでは、騒音基準を越えないよう測定器を持ってオフィスの騒音を監視する騒音レベル担当者までいるのだという。さらに PCは場所を大きく取るため机の上にはほかの作業を行うための場所がなくなってしまう。また1台ごとにメモリやディスクが必要となるという点で非常に効率が悪い。またPCはすぐに時代遅れになってしまう。ホール氏は、ほかにも言いたいことはあるが、この講演ではPCではなくシンクライアントについて話したいと述べた。

 しかし、ホール氏はさらに幾つかPCを非難することを続け、講演の核心部分に到達するまでに時間がかかった。例えば、ある公務員が麻薬密売人のボーイフレンドのそばで仕事の続きをするために機密データをUSBメモリに入れて自宅に持ち帰っていたことが発覚したという例を挙げて、デスクトップPCのセキュリティは非常にお粗末だと述べた。またデスクトップのセキュリティにとっては、清掃スタッフさえも脅威となることもあるとした。

 ホール氏は同氏の両親の写真を示して、「本当の問題は何なのだろうか?」と聴衆に問いかけた。飛行機の整備工だったホール氏の父親は、自分の車のエンジンをバラバラにして再び組み立て直すということを何度もやっていたという。しかも、なくなったり組み立て後に余ったりする部品はなく、説明書の類いもまったく見ずにやっていたのだそうだ。ホール氏は、父親や母親というものは、(そんなホール氏自身の父親でさえ)コンピュータにはとにかく動いて欲しいと思うものであり、カーネルのコンパイルに時間をかけるようなことは好まないのだと述べた。

 「父親や母親にも使うことができ、とにかく動く」という複雑な電気機器は実際に存在する。ホール氏によると、それは電話だ。電話のネットワークは決して取るに足らないものではなく、高い技能を持つ人々による保守の必要性もあるにもかかわらず、エンドユーザーはそのようなことは何も気にする必要がないのだという。

 ホール氏によると、フリーソフトウェアを搭載したLTSP(Linux Terminal Server Project)シンクライアントは、小さく、軽量で、安価で、省電力であり、同等の能力を持つPCよりも使いやすいという。一方LTSPサーバは大量に電力を消費するが、それらはユーザーの作業や管理者の保守を一手に引き受ける場所となっている。ホール氏によるとLTSPは世界中で大当たりしているという。LTSPを使用すれば、486マシンのような旧式のシステムを端末として再使用できるとのことだ。その例として、寄付された多くの旧式のコンピュータと、LTSPを搭載した、やはり寄付されたサーバ1台とを使用してまったく予算をかけずにしっかりと役に立つコンピュータシステムを構築した学校が紹介された。

 LTSPの端末はローカルのストレージを持たず、夜間は電源をオフにすることが簡単にできると指摘した。またソフトウェアの海賊行為を引き起こしにくいとした。ホール氏は講演をやや脱線させて、同氏がソフトウェアの海賊行為を良くないと考えていることについて話し、ソフトウェアの作者には自ら作成したソフトウェアがどのような形で使われることを希望しているのかを主張するあらゆる権利があると述べた。そしてその一方で、ユーザーにはそのようなソフトウェアを使うか使わないかを選ぶ自由があるとした。

 海賊行為に関してホール氏はさらに、ブラジルで非常に安価なLinuxコンピュータが大量に提供された試みについての話をした。その試みが行なわれた後しばらくすると、安価なコンピュータを購入した人のうちの約75%がLinuxを別のOSの違法コピーに入れ替えているとして、ある有名なソフトウェア企業がブラジル大統領に対して苦情を申し立てたのだという。その際ブラジル政府からどうすれば良いかを尋ねられたホール氏は、ブラジル全体の違法コピー率である84%と比較すると少ないのだから、それはむしろ前進であると答えたとのことだ。

 なおホール氏によると米国の違法コピー率は34%、ベトナムは96%と見積もられているという。そして、ベトナムの人々の収入が日に2ドルか3ドル程度であるというのに、ぴかぴかの新品だからといって、裏通りに行けばたったの2ドルで買えることが分かっているCDに対して300ドルも支払って購入することを彼らに期待するべきではないと指摘した。

 第三世界の人々もインターネットにつながる必要があるが、彼らにとってはプロプライエタリなソフトウェアは高価すぎる。しかしLTSPを利用すればそれが可能になるのだという。

 ホール氏は、最近、地球温暖化が大きく深刻な問題になりつつあるが、そこへさらに10億人の人々がオンラインになるためにそれぞれ400ワットから500ワットの電力を消費するデスクトップを使用することを想像してみて欲しいと呼びかけた。コンピュータが消費する電力のほとんどは熱に転換されるため、その分の熱のための空調のコストがかさみ、貧困地域にとってはさらなる負担が強いられることになるという。

 また環境問題に関連してホール氏は、ニューハンプシャー州の同氏が住む町では、昔はごみの埋め立て地まで車で「下りていった」のに、後にごみの埋め立て地まで車で「上がっていく」ようになり、その後その埋め立て地は、満杯になり過ぎて、埋め立て地から流出する水が町の飲み水に影響を与えるようになってしまったため閉鎖されたという話をした。そして、シンクライアントはモニタの後ろに入ってしまうほど非常に小さいことを指摘した。さらにシンクライアントには機械的に動くパーツがないため、騒音もなく、寿命もかなり長いという。そのためごみの埋め立て地を短期間で埋め尽くさずに済むとのことだ。

 またホール氏は、LTSPは新しいオープンなビジネスモデルを生み出すのにも使えるので、人々にはLTSPを使って起業してもらいたいと述べた。そして、LTSPサービスを提供できるように人々を教育して欲しいと続けた。そしてそれに似た話として、大企業がインターネットを発見する前の初期の ISPの思い出話を始めた。以前はその地方のISPが小規模で地元に密着したビジネスを行なっていて、顧客はISPのオペレーターと実際に意味のある形でやり取りすることができたのだが、やがてそのようなISPがより大きな企業に買収され、ちょうど大規模なソフトウェア企業と同じような形でサービスのレベルを低くださせてしまったのだという。しかしLTSPベースのネットカフェは、以前のようなモデルでも成り立つはずだとした。

 例えば、南米国では80%の人々が都市環境で暮らしているという。しかし通常の基本的なサービスは、利用可能であったとしても非常に高価だとのことだ。一方で、月に1000ドルを得ることができれば一般的に非常に高収入だとみなされるという。従ってLTSP企業家が100人の顧客を獲得することができれば、その程度の収入を確保することが可能であり、電話やインターネットラジオなどのサービスを提供することが実現できるという。

 ホール氏はまた、同氏の目標はブラジルで1億5000万台のシンクライアントを実現することだと述べた。そのためには100万台から200万台のサーバが必要となり、その結果ブラジルに約200万件の新たなハイテク雇用を生み出すことになるという。またそれが実現すれば、地元のサポート事業のための基盤が生まれることになるため、私的な資金で事業として行うことも現実的だとした。そして、有益なハイテク関連の職や、起業家によるオンサイトサポートも生まれるだろうとのことだ。

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