第7回 HFS、HFS Plusの基本的概念【前編】Undocumented Mac OS X(1/4 ページ)

Mac OS XのデフォルトファイルシステムHFS Plus。今回はその基本的概念をはじめ、HFSおよびHFS Plus共通の機能を解説する。

» 2007年07月24日 01時53分 公開
[白山貴之,ITmedia]

 Mac OS Xは、さまざまなファイルシステムをサポートしている。NeXT由来のUFS、旧Mac OSでメインのファイルシステムだったHFSとその拡張版HFS Plus、CD-ROMで用いられるISO9660形式や、Windowsはもちろんデジタルカメラ向けメモリカードでも用いられデファクトスタンダードとなっているFAT、さらにはWindows 2000/XPで標準的なNTFSまで扱える。

 そうした中でも、Mac OS X自身をインストールできるMac OS Xネイティブのファイルシステム*といえるのが、今回と次回で紹介するHFS Plusだ。Mac OS Xのほかの要素と異なり、HFS PlusはNeXTやUNIXをルーツとしない、Mac OSという環境だけを出自とするかなり癖のあるファイルシステムだ。

HFS

 HFS Plusは、その名のとおりHFSを拡張した*ファイルシステムだ。HFSはHierarchical File System、つまりは「階層型ファイルシステム」の略称である。わざわざ階層型と称するのには理由があり、HFSの前身であるMFS(Macintosh File System)に階層構造がなかったことに由来する。初代Macintoshで使われていたMFSは、Finder上での見かけでこそディレクトリがあり階層状になっているが、ファイルの実体はMFSボリュームの中にフラットに格納されており、1つのボリュームの中に同じファイル名のファイルは1つしか存在できないという制約があった。最も、当時のストレージといえば400Kバイトないしは800Kバイト程度の容量*しかないFDであり、ファイル数もたいしたことはなく、こうした見かけだけの階層化でも問題はなかったのだ。

 初代Macintoshを大幅に改善したMacintosh PlusではSCSIインタフェースを採用、HDD接続が可能になった。するとこの階層を持てないという制限が問題となり、より多数のファイルを扱えるファイルシステムが必要となった。そこで登場したのがHFSであり、階層構造を持ったことを端的に示す名称がつけられたというわけだ。

 その後、HFSは1998年のMac OS 8.1の登場までMac OSの標準ファイルシステムとして、10MバイトのHDDの時代から、10Gバイト以上のHDDが当たり前になる時代まで使われ続けた。

Copland

 ここまで継続して使い続けるはめになったのは、ひとえにCoplandのせいだ。Coplandは、1990年代前半に次期Mac OSといわれたOSのコードネームで、1991年に登場したSystem 7*の次のメジャーリリース、つまりはMac OS 8となるべきだったものである。

 Coplandでは、WindowsのOLEやCOMに似たOpenDocや、Windows NTで採用されたプリエンプティブマルチタスク、メモリ保護機能の搭載が約束されており、Windows NTがFATに比べ革新的なNTFSというファイルシステムを搭載したように、当時すでに色あせつつあったHFSを改善したファイルシステムの搭載もその公約の1つにあった。ただ、Windows NTと違って、Coplandはいつまでたってもリリースされなかった。

 Windows NTが、1993年のリリース以来3.5、3.51、4.0とバージョンを重ね着実に公約を実現していく一方、Mac OSは1994年のSystem 7.5を最後に大規模なリリースもなく、7.5.1、7.5.3、7.5.5と場当たり的なパッチリリースが続けられていく。「いつかCoplandという神風が吹いて一気に世界が変わる。それまでは古いファイルシステムであろうと、クラッシュするOSであろうと我慢する」というのが、当時のMacの状態だったのだ。

 もちろん、神風は吹かなかった。度重なる迷走の末、AppleのCEO職についたギル・アメリオ*によっていつまで経ってもリリースされないCoplandの開発は凍結され、Coplandに代わる新OSを「外部から買ってくる」こと、そして当座をしのぐため現状ベースでのMac OSの改善が決定された。この決断によってようやく生まれたのがMac OS 8だ。Mac OS 8ではSystem 7系のMac OSをベースに、Copland向けに開発された機能のうち使えそうな部分を抜き出し融合していった。

 そうしてMac OS 8.1でようやく世に出たのが、HFS Plusだ。

このページで出てきた専門用語

Mac OS X自身をインストールできるMac OS Xネイティブのファイルシステム

実はHFS PlusだけではなくUFSにもインストールできるが、実質的にUFSでMac OS Xをインストールする例は皆無といっていい。

HFSを拡張した

日本語ではHFSは「Mac OS標準」フォーマット、HFS Plusは「Mac OS拡張」フォーマットと訳されている。

400Kバイトないしは800Kバイト程度の容量

当時のMacのFDDは少々特殊で、ディスクの内周と外周で回転数を変えることで通常の2D(320Kバイト)、2DD(640Kバイト)より容量の多い2D(400Kバイト)、2DD(800Kバイト)を扱えた。同じメディアでより大容量のデータを格納できたのだが、一方でほかのPCとの互換性が損なわれるという問題があった。なお、2HDについてはPC(MS-DOS)と同じ1.44Mバイトである。

System 7

Mac OSは、バージョン7.6までは単に「System」と呼ばれていた。一方、日本語にローカライズ(いまで言うL10N)されたSystemは、特に漢字Talkという名称がつけられていた。英語版OSがSystem 6なら対応する日本語版は漢字Talk 6という次第だ。PCIバスとPowerPCを採用する以前のMacはファームウェアとOSが不可分であり、まるでワープロ専用機のようにソフトウェアとハードウェアが綺麗に分かれておらずOSという概念が希薄だったのだ。PCIベースのMacでハードウェアとOSの境目が明確になり、PCIベースのMacが一般的となったバージョン7.6以降で、英語版、日本語を含む各国ローカライズ版すべてをまとめて「Mac OS」と称するようになった。この改称でようやく「OS」という概念がMacユーザーに一般的になったとも言える。一時Macユーザーに流行った、WindowsをWindows OS、NeXTSTEPをNeXT OS、UNIXをUNIX OSと何でもOSをつけて呼び習わす困った風習が生まれたのも、いま思えばこの改称のせいだったのかもしれない。

ギル・アメリオ

1996〜1997年、AppleのCEOを務めた。NeXT買収を決定し、スティーブ・ジョブスのApple復活のきっかけを作った。


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