「大災害はテレビの向こうの出来事」――経営者のあきれた防災意識

コクヨS&Tが実施した「コクヨ 企業の防災対策意識・実態調査」の結果からは、7割の企業経営者が災害への不安を感じていながらも、いまだに対岸の火事のようにとらえる傾向があるようだ。

» 2007年09月06日 21時26分 公開
[西尾泰三,ITmedia]

 コクヨグループのコクヨS&Tは、日本の企業が行なっている防災対策の実態と意識調査をするため、全国の企業経営者(有効回答数632)を対象に実施した防災対策意識・実態調査の結果を公開(PDF)した。

 同調査では、従業員数300名以上1000人未満の企業を大企業、299名以下の企業を中小企業と便宜上位置付けている。

 世界でも有数の地震大国であり、近年でも1995年の阪神・淡路大震災、2004年の新潟県中越地震、2005年の福岡県西方沖地震、2007年の能登半島沖地震などの大災害を経験してきた日本。同調査では、大企業の30.2%が地震などの自然災害にあうかもしれないという不安を非常に感じており、「少し不安を感じている」も含めると約7割以上が不安を感じているという結果となった。

全体の73.9%が少なからず災害に対して不安を感じていると回答。果たしてこの数字は高いのか

 それなりに高い数字といった具合だが、一方で、そうした災害への防災対策については、「十分な用意ができている(達成率90%以上)」と回答したのが全体のわずか2.4%。大企業でも6.6%と惨たんたる結果だ。達成率は50%以上という回答まで含めると、大企業で71.7%と高い数値になるが、実践的防災・危機管理の第一人者でして知られる防災システム研究所長の山村武彦氏は、この結果に警鐘を鳴らす。

 「数値は主観に基づく自己評価であり、実際に防災対策ができている企業は2割に満たない。現状では企業への防災対策の基準やマニュアルがきちんと整理されておらず、企業経営者に伝わっているとは考えにくく、数値的根拠のない防災対策をなんとなく行なっているのが現状ではないか」

 防災対策とは言いつつも、その具体的震度を設定していないケースが半分を占めることや、BCP(Business ContinuityPlan=事業継続計画)について全体で約7割強の企業経営者が知らないと回答している企業が多いことなどから、地方に支社を多く抱える企業であればともかく、大災害の被害を直接受けたことのない中小企業経営者は災害の実感がなく、その目的意識が欠けているようだ。

 興味深い質問としては、「自然災害に遭うかもしれないということにどの程度不安を感じていますか」という質問に対し、「不安を感じる」と回答した関東地域(東京・神奈川・千葉・埼玉)の経営者は75.6%なのに対し、関西地区(大阪・兵庫・京都)の経営者は69.3%となった。逆に「あまり不安を感じない」という回答は関西地区で28.2%と、関東地区の17.9%を大きく引き離している。

関西地域の災害への不安は関東より低い。しかし2度あることは3度あるとも

 前述の山村氏は、「阪神・淡路大震災を受けた関西地区では、心のどこかで、一度大きな地震を経験したから次はもう来ないだろうという考えや、あの大災害をまた思い出したくないという心理が反映されたのではないか」と話す。逆に言えば、関東では、1923年の関東大震災クラス(M8)にはおよばないものの、都市部に深刻なダメージを与えるであろうM7クラスの直下型地震に対する潜在的な恐怖が強く存在する。こうした心理が反映されていると見ることもできよう。

 全般的に中小企業の防犯意識の低さが露呈した今回の調査結果。遠く離れた場所で起こる地震を対岸の火事のようにとらえ、「最悪の事態」に対してどう対応すべきかの教訓が生かされていないことに経営者は再考すべきであろう。

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