ブログ、SNS、動画投稿…日米間の大きな格差はここにあり!技術と社会の相乗――アメリカのインターネット事情

社会的地位を確立したブログに対し、やや迷走気味のSNS。一方、勢いづく動画投稿サイト。そこから垣間見える、日米間の大きな格差とは――。

» 2007年09月12日 06時00分 公開
[成川泰教(NEC総研),アイティセレクト]

 米国のブログは、個人による情報発信のものと、複数の有名ブロガーが運営する、専門情報を扱うものに分化してきている。いずれも、多くの一般読者から強い支持を獲得し、世論形成などにまで大きな影響力を持つ。そういう意味で、メディアとしての地位を確立しつつある(以上、9月5日の記事参照)。

SNSの先行きは不安定!?

 同様のことはSNSについてもいえるが、こちらは一般利用者を囲った形でのサービスとして成立しているものなので、一つのサービスが長期にわたってメディアとして存続できるかどうかについての不安定性は、米国でもいまだに払拭されていないのが現状ではないだろうか。例えば、2006年まで世界最大規模のSNSとして話題になった「MySpace」でさえ、利用者数では最大規模を維持しているものの、その質的な側面については、それを疑問視する意見が現在では多い。

 米週刊誌「タイム」は、同年編集した、有用なウェブサイトに関する特集記事の中でMySpaceを絶賛したが、2007年になって組まれた同様の特集においては、同サイトを「5つの最悪サイト」の一つとして選出している。その理由として、依然として優れた情報発信者や効果的なイベントなどの存在を認めつつも、偽のプロフィールを語って商業目的のスパムをばらまく者が急増し、参加者が非常に不愉快な思いをしている点を指摘している。

 同誌がそれに代わって新たに選出した、優れたSNSは、現在利用者数が2番手で学生中心に拡大している「Facebook」であった。このサービスは、オープンソース制の導入やAPI公開などにより広い意味でのWeb2.0的手法が大きな特徴になっているわけだが、2008年にこれがサービスとしてどうなっているかは、まだだれにも分からないところだろう。

大統領選を左右するYouTube

 「YouTube」に代表される動画サイトについては、ブロードバンドを代表するアプリとして確立した感はある。日本での利用が(後を絶たない違法投稿を含め)テレビメディアのライブラリ的なものにとどまっているのに対して、米国ではそうした側面とは別に、映像作品や自分の一芸、あるいは単なるオピニオンに至るまで、個人の情報を発信する場としての利用が拡大している。

 同サイトは、若い世代を中心に日常的な映像情報を試聴する場として利用されることが急速に拡大している。彼らの多くは、動画サイトで得た情報をいろいろな方法で仲間と共有している。一部の人は、自分の映像を発信し、他人の映像にコメントや評価をつけることにも抵抗がない。映像を主体的な社交手段として活用し、受身的な試聴が中心の有料コンテンツには興味を示さないのである。

 さらに現在のYouTubeの力を象徴しているのが、2008年の米大統領選に向けた情報チャンネルであり、同サイトを使った一般人からの質問を受け付けて行われたCNNによる候補者討論番組である。YouTubeが大統領選の勝敗を決める最も重要な舞台になりつつあることを指摘するアナリストは多く、その政治的影響力は紛れもなく従来のメディアとは一線を画す性質のものである。

あらわになった、乏しい日本の現状

 そこは見方によっては、候補者の意見と有権者一人ひとりの意見が同じ単位で扱われる、極めて民主主義的な場であり、別の見方では、さまざまな意見が入り混じり、制御することが困難な混沌の世界でもある。しかし、物事の多くはそうした二面性を持っており、それに対してその有望そうな側面に賭けて未知なる可能性を求める動きと、危うそうな側面を理由に二の足を踏んだり否定する動きがある。

 技術でつくられたインターネットという仕組みが提示された時、それを社会全体で前向きにとらえ、少しでもよいものにしていこうという受容姿勢というものが、米国の現状からはしっかりと感じられる。

 米国のインターネットにおける社会性の増大とその領域の拡大は、単なる基礎データの上での比較ではうかがい知れることのできない、日本との大きな格差となって存在していることが分かる。そこにはインターネットの可能性を非常に狭い意味でのビジネス活用という側面からしか見ない日本の現状が垣間見えるようにも思える。それが市場拡大の阻害要因としても潜在していると考えるのも誤りではないだろう。単に安心、安全と唱えているだけでは、物事は決して前には進まない(「月刊アイティセレクト」掲載中の好評連載「新世紀情報社会の春秋 第十九回」より。ウェブ用に再編集した)。

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なりかわ・やすのり

1964年和歌山県生まれ。88年NEC入社。経営企画部門を中心にさまざまな業務に従事し、2004年より現職。デバイスからソフトウェア、サービスに至る幅広いIT市場動向の分析を手掛けている。趣味は音楽、インターネット、散歩。


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