部下の欲求を知ろう――「承認」こそがやる気の源人心掌握の鉄則(1/2 ページ)

モチベーションをあるレベルで維持させるようにする環境とはどんなものなのだろうか。仕事の達成感もその1つだが、上司や同僚の「承認」も大切な要素だ。

» 2007年10月04日 08時10分 公開
[アイティセレクト編集部]

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 もう一度われわれはモチベーションという言葉を確認し直す必要があるようだ。

 調査会社ギャラップが世界各国のさまざまな業種の会社に勤務する40万人以上の社員を対象に行った調査によると、社員に対する承認や賞賛が、所属部門の生産性、利益、安全性などを高めることが確認された。ハーズバーグの調査でも、仕事に対する満足の項目の上位に「承認」が来ている。

 働く者にとって、仕事の原動力の最たるものは給与や労働時間といった労働条件や待遇ではなく、働いている仕事の意義が社内的にも社会的にも認められること、そしてそれを達成した時には「達成感」とともに、相応の「承認」が与えられることにある。

 人間という動物は、生まれたときから常に何らかの形で周りから認められたい、受け入れられたいと願う生き物のようだ。だからこそ社会を作り、社会性というものを重視してきたのである。そして人は認められることで自信をつけ、そして成長する。これは人として生まれてこのかた、いくつになっても変わらない切ないまでの普遍的な欲求であるとさえ言えよう。

 もちろんこのような欲求を満たすべく全社的に取り組んでいる企業もある。例えば小林製薬では、成果をあげ、売り上げをあげた社員に対して社長から直々に本人にメールが届く。そこには評価の理由に加えて、それぞれの社員に応じたメッセージが書かれているのである。これなどはまさに社員の承認欲求を満たすものの最たるものだろう。

評価が裏目に出る日本社会

 しかし承認の仕方によっては、むしろ逆効果になるケースも多い。特に日本のような社会では公に承認することが、本人にとってマイナスの結果を生むことがしばしばある。

 「出る杭は打たれる」という言葉があるが、日本の社会ほどこの意識が強い社会もないようだ。社長賞やら何やら、公に評価を受けた者ほど、周りに気を使い腰を低くし、ばつが悪そうにさえしている光景がある。それは自らが評価されたことで周囲のやっかみや批判を恐れるという心理が働いているからだ。

 このような日本人的な心理は旧世代だけに見られることで、今の若い世代には当てはまらないのではないか、と考えるのは早計である。東京成徳大学子ども学部教授の深谷昌志氏が都内の中学生に行ったアンケート調査によると「友人と同じ行動をとり、一人だけ目立った行動をしない」ようにしている生徒が全体の80%に及んでいるという。いじめのはびこる昨今の学校生活の中では、いかに目立たないように生活するかが身を守るための処世術なのだ。とくに最近のいじめはいじめる側といじめられる側が入れ替わり、昨日まで威張っていたものが突然クラスのいじめの対象になることもあるという。

 その場の雰囲気に合わせ、決していじめの対象になるような目立つ行動は取らず、ただひたすら息を殺して生活している│窮屈な子供たちの姿が浮かんでこよう。そのような学生生活を経て社会に入ったいまの若い世代である。むしろ旧世代より日本人的なマインドが強いと考えてもあながち間違いではなさそうだ。

 4月、新入社員が街を集団で歩いてる光景をよく目にする。彼らの着ているスーツが全員真っ黒に統一されたのは、いったいいつごろからであろうか?

 ここ数年続いた就職難に、学生ができる限り会社に好印象を与えるように、まずは自分を押し殺しているのではという解釈もあるが、むしろ彼らは上の人間の目ではなく、一緒に入った同僚たちの目線のほうを気にしているのかもしれない。

 このような現在の日本の社会を考えてみれば、「承認」に対する欲求はより屈折したものになりがちである。それはストレートに表に出てくることはなく、意識の底にゆがんで押し込められる。そのデリケートさを考えれば、ただ公に評価することが彼らの承認欲求を満足させるとは限らないことに気が付くであろう。かれらは目立つことを極度に恐れているからだ。

 モチベーションをいかに高め、それを維持していくか…。会社として、組織として個人を承認し、成果に対しては正当な評価を与えることが大切だということまでは理解できても、それを実際にどう具現化するかというのは意外に難しい作業なのである。

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