目標とのギャップを測定する――成熟度モデル今日から学ぶCOBIT(1/3 ページ)

COBITにおける「成熟度モデル」という考え方を解説する。

» 2007年12月20日 08時00分 公開
[谷誠之,ITmedia]

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成熟度モデルとは

 本連載において繰り返し述べているが、COBITは成果測定主義である。

 これはCOBITに限ったことではない。企業がなんらかの活動を行う際には、目標と成果をはっきりさせる必要がある。最も分かりやすいのは売上だろう。年初に「今年はいくら売り上げるか」とか「いくら利益を出すか」という目標を立て、月単位とか、四半期単位、あるいは半期単位でレビューして、その結果を測定する。場合によっては営業マンがケツを叩かれ、場合によっては表彰される。目標を下方修正したり上方修正したりすることもある。

 個人においても同じことが言える。最近はやりの「デキるビジネスマンが使う手帳」といった類の商品には、必ず「目標」と「実績」を書き込む欄がある。最初に目標を定量化(数値で示すことのできる形式)しておき、活動を行った後に目標を達成したかどうか必ずレビューし、達成度合いをチェックする。

 この時、デキるビジネスマンは、達成率が100%を割った場合、決して言い訳をしたりしない。また、「あの時こうやっていれば」と過去を振り返って後悔したりもしない。どうせ、過去は変えられないのである。次にうまくやるためにはどうすればいいか、反省して行動を改善するのが、デキるビジネスマンというものである。成果測定はその結果に一喜一憂するために行うのではなく、次の活動をより良いものにするために行うものなのだ。

 さて、目標が「あるべき姿」であり、実績が「現状」であれば、そこに差異があればそれは「ギャップ」ということになる。ギャップはすなわち、「次に何をすべきか」ということを明確に表しているものである。企業においても個人においても、このギャップを埋めるための活動が重要である。

 COBITでは、ギャップを埋めるための(あるいは目標に効果的・効率的に近付くための)方法として、「きちんとしたプロセスを作って、きちんとコントロールしましょう」という考え方を持っている。そしてさらに、各プロセスがどの程度きちんとできているか、ということを「成熟度モデル」という形で表現している。これはかなり具体的である。どう具体的かということは後半に述べることにして、まずはその成熟度モデルの概要を説明しよう。

 成熟度モデルは主に、ITガバナンスをコントロールするプロセスがどのように存在しているか、またはそれがきちんと機能しているかという観点で測るようになっている。第4回でも述べたとおり、成熟度モデルは次の5つの段階、および該当するプロセスがまったく存在しないという段階の計6段階を定義している。

0(不在)

 識別可能なプロセスが完全に欠落している。企業は、対応すべき問題が存在することすら認識していない。

1(初期/その場対応)

 企業は、対応が必要な問題の存在について認識している。ただし、標準化されたプロセスは存在せず、対応は、個人的に、または場合に応じて場当たり的に行われている。総合的な管理方法は体系化されていない。

2(再現性はあるが直感的)

 同じ仕事に携わる複数の要員において同等の手続が行われる段階にまで、プロセスが進歩している。標準的な手続に関する正式な研修や周知は行われておらず、実行責任は個人に委ねられている。個人の知識への依存度が高く、そのため、誤りが発生しやすい。

3(定められたプロセスがある)

 手続は標準化および文書化されており、研修により周知されている。ただし、このプロセスに従うかどうかの判断は個人に委ねられ、プロセスからの逸脱はほとんど発見されない。手続自体は、既存の実践基準を正式化しただけのものであり最適化されてはいない。

4(管理され、測定が可能である)

 手続の順守状況をモニタリング、測定でき、プロセスが効果的に機能していないと判断された場合に対処が可能である。プロセスの改善が常時図られており、優れた実践基準を提供している。自動化やツールの活用は、限定的または断片的に行われている。

5(最適化)

 継続的改善、および他社との比較による成熟度モデル化の結果、プロセスがベストプラクティスのレベルにまで最適化されている。ITは統合され、ワークフローが自動化されている。これにより品質と有効性を改善するツールが提供され、企業の迅速な環境適応に貢献している。

 成熟度モデルは、自社の目標を表す場合にも、現状を表す場合にも効果的に用いることができる(図1)。また、その業界全体の平均を表すこともできる。業界の平均を知ることは大変難しいが、COBITではそれを簡単に入手できる仕組みを用意している(これに関しては本連載の第12回で述べる)。

図1:成熟度モデルの図式化
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