SaaSの潮流と普及のための条件【前編】ERPで変える情報化弱体企業の未来(1/3 ページ)

ERPをはじめとする基幹系情報システムに、利用や運用管理の形態でSaaSという新たな潮流が見え始めている。では、業務システムに関して国内のSaaS市場はどのような動きがあるのだろうか。

» 2008年02月06日 07時00分 公開
[赤城知子(IDC Japan),ITmedia]

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SaaS市場定義と国内市場概況

 現在、IT市場ではSoftware as a Service(SaaS)が高い注目を集めている。しかし、SaaSには多様な解釈があり、統一された見解/定義は存在していないが、調査会社のIDCでは独自にグローバルで定義を統一し、調査/分析を行っている。

 IDCが定めるSaaSとは、「アプリケーション機能/運用/サポートを提供するサービス」である。SaaSの主要なサービス価値は、アプリケーションに関わる保守や、日々の技術的運用/サポート業務を顧客から解放することにある。SaaSのデリバリーモデルは、ベンダーサイドで集中的に運用管理されたシステムによってアプリケーションを稼働させ、ネットワークを経由してアプリケーション機能を提供することである。また、サービスは1対多型によって複数の顧客へ提供され、そのアーキテクチャ、運用管理、価格などは標準化されている。

 IDCではSaaS市場をホステッドアプリケーションマネージメント(Hosted AM)、ソフトウェアオンデマンド(SoD)に区分している。Hosted AMは、顧客が所有するアプリケーションソフトウェアに対するサービスであるのに対し、SoDはソフトウェアライセンスと運用管理を抱合し、Webベースでアプリケーション機能を提供することである。

SaaSはホステッドアプリケーションマネージメント(Hosted AM)とソフトウェアオンデマンド(SoD)の2つの提供形態がある

Hsted AMとSoDの相違

Hosted AM SoD
アプリケーションライセンス形態 運用管理サービスとは区別され契約 運用管理とともにサービス契約に抱合
アプリケーションの共同利用 しない(Single-tenancy applications) する(Shared applications)
アプリケーションのカスタマイズ(ビジネスロジック/コードの新規作成/変更) 可能 不可(*1)
アプリケーションのコンフィギュレーション(*2) 可能 可能
インフラストラクチャの共同利用 する する
米国での主なベンダー/サービス名 Oracle on Demand、IBM Applications On Demandなど Cisco WebEX Communications、Citrix Online、Microsoft Office Live、Oracle Sibel CRM on Demand、salesforce.comなど
*Notes:
1. SoDにおいて開発言語の公開などによってカスタマイズを可能とするサービスがあるが、顧客独自仕様サービスとなった場合はSoD市場から除外する。
2. コンフィグレーションにはコードの変更を伴わないユーザー画面の変更やマッシュアップ機能の追加が含まれる。
Source: IDC Japan, November 2007

Hosted AM市場状況

 現在、国内企業が基幹系情報システムを構築する際には、業務要件を出発点としてインフラストラクチャの選定、アプリケーションの選定/開発を一体化して検討することが通例である。また、既存の業務処理を重要視する傾向が強く、パッケージアプリケーションソフトウェアを利用しても、アドオン開発/カスタマイズすることが多い。その結果、業務要件を中心に拡張性を意識したシステム性能要件に注意が払われ、ハードウェア/ソフトウェア/サービスが一体となったビジネスが多く見られる。従って、ERPなどの業務アプリケーションを、標準化されたインフラストラクチャを用いて複数顧客と共同利用するHosted AMは、国内市場では浸透していない。

 近年のIT市場では、サービス指向アーキテクチャ(SOA:Service Oriented Architecture)、仮想化、運用管理ツールなどの技術発展が著しく見られる。特に、SOAを基盤としたミドルウェアや、業界特化型アプリケーション、業種テンプレートを備えた汎用ERMパッケージソフトウェアが提供されるなど、アプリケーション導入の簡易化が図られている。また、国内企業ではシステム運用管理の効率化が重要なIT課題として認識されており、性能/機能重視から運用管理を考慮したシステムへと、システム構築手法を含めたアーキテクチャの見直しが進められている。さらには、システム構築の効率化と品質向上を目的として、ITサービスの標準化/自動化/工業化を積極的に進めるサービスベンダーも多い。こうした状況の中、国内市場ではインフラストラクチャとアプリケーションの分離/連携が緩やかに浸透している。また、旧態依然とした一体型ビジネスから、「ハードウェア製品」「ソフトウェア製品」「ITサービス:設計、開発/構築、運用、保守」の分離調達へと変化の兆しが見られる。Hosted AMは、標準化されたインフラストラクチャを利用しながらも、アプリケーションのカスタマイズを可能とし、インフラストラクチャとアプリケーションの分離/連携を実現したモデルである。インフラストラクチャのカスタマイズはできないものの、サービスを標準化することによって「迅速なシステム構築」「システム拡張性/可用性の強化」「費用対効果の向上」「運用管理の効率化」といった利点を備える。Hosted AMは、システム構築の迅速性と拡張性を重要視する企業に適したサービスである。

 しかし、国内市場ではインフラストラクチャを複数の顧客で共同利用することに対し、セキュリティ面で不安を持つ企業も多い。また、高額なアプリケーションソフトウェアを購入しているため、共有インフラストラクチャをサービスとして利用することに抵抗感を持つ企業もある。さらには、Hosted AMはアプリケーションの実行環境に対するサービスであり、アプリケーションのカスタマイズ/修正は顧客の責任となることが一つの障壁となっている。インフラストラクチャとアプリケーション開発/修正/保守が一体化されたサービスに慣れ親しんだ企業にとって、Hosted AMの利用は容易ではないだろう。国内企業のインフラストラクチャとアプリケーションの分離/連携への理解や、システム構築/運用手法の見直しがHosted AMの普及には必要である。

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