〔普通のシステム管理者・神田正男〕は、とっさにマシンルームの机の下に隠れ、揺れがおさまるまで待った。マシンケージやロッカーは固定されているが、什器の上に荷物を置かないということが徹底されていなかったため、たくさんモノが落ちてきた。幸い机の下に隠れるのが早く、落下物で怪我をすることはなかった。
しかし、真っ暗で何も見えない。神田はマシンルームの机の中にある、懐中電灯を手探りで探し出した。電灯をつけたものの、普段使っていないものだから、どうも電池が頼りない。電灯を節電しつつ、サーバの状態を見に行った。
無停電電源装置は正常に作動している。システムもシャットダウンが進行中のようだ。とりあえず、オフィスにいるはずのシステム部長に報告しようとした。だが、マシンルームにあるIP電話は、停電だと使えない。マニュアルには安否を上司に報告とあるが、電話が使えないのでは仕方ない。
携帯電話は、音声による通話は不通だったが、携帯メールは多少の遅延はあるものの正常に届くようだ。神田は音声の通話はあきらめ、携帯メールを使って大阪の管理者に無事を知らせるとともに、東京のバックアップテープを大阪サーバで展開してもらうように依頼した。
給与の振込みは東京の総務部長の決裁で行うことになっている。しかし、最新の給与のデータは東京サーバの中にあるので、復旧できなければ給与の支払いが遅れることは明白だ。給与をはじめ、事前に対策マニュアルは作ってあったのに、いざというときに役に立たないことが分かった。
これだけの地震であれば、東京のサーバが復旧したとしても、正常稼働まで時間がかかるだろう。
バックアップ体制はしっかりしていたが、東京のサーバが停電で機能しておらず、アクセス不能の状態となってしまった。
バックアップの運用は、神田なりに知恵を絞ったものだった。そして行われていたのが、次の運用方針だった。
バックアップした東京のテープと大阪のテープは、毎週末に宅配便で交換している。ただし、今回は見たところ、マシンルームが散乱しているものの、サーバは無事のようである。とはいえ、電源が復活してくれなければ、ハードウェアが無事でも何もできない。
A社の受発注システムでは、B to Bによる取引が随時行われている。社内システムだけでは完全な障害対策が取れないため、ホスティング業者を利用しているが、その選定の際に、できるだけ低料金の業者を選定した。ただし、別の地域にサーバをミラーリングするオプションだけは契約した。毎月の費用はバカにならないが、今回は選択が正しかった。
ところが、後日、大阪からホスティングサーバにアクセスできないことが分かった。大阪の管理者とホスティングサーバの操作の共有を怠ったためだ。管理方法を大阪の管理者にいずれ伝えなくては、と考えているうちに被災してしまったのだ……。
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