中堅中小企業の経営基盤改革術

ERPで在庫量の最適化を実現――組立製造業A社の場合中堅中小企業の経営基盤改革術(1/3 ページ)

中堅の自動車部品組立製造業者A社が、ERP導入によって自社の生産管理システムを改善していった様子を紹介する。A社の年商は120億円、従業員は500人だ。

» 2008年07月15日 08時00分 公開
[岩上由高(ノークリサーチ),ITmedia]

この記事はオンライン・ムック中堅中小企業の経営基盤改革術のコンテンツです。


 前回までは中堅中小企業におけるERP導入の歴史的いきさつやERP標準モデルを把握することなどを通じて、ERPの全体像について俯瞰してきた。第4回から第7回にかけては、さまざまな導入事例のエッセンスを抽出した事例という形で中堅中小企業におけるERP導入例を具体的に取り上げていく。

 初回である今回は中堅の自動車部品組立製造業者A社が、ERP導入によって自社の生産管理システムを改善していった様子を紹介する。A社の年商は120億円、従業員は500人だ。

A社がおかれている状況

 自動車業界においては消費者の多様なニーズに迅速に応えるため、さまざまな車種を短納期で生産できる体制の強化が急務となっている。その結果、大手自動車メーカーはA社をはじめとする部品組立業者に対しさらなる納期短縮を求めてきている。A社はオフコンで稼働する独自開発の生産管理システムを稼働させており、これまでも納期短縮の努力を重ねてきた。しかし、今後さらなる納期短縮を実現するためには現行システムではもはや限界であると判断し、ERPによる生産管理システムの刷新に着手する決断を下した。

問題点の把握

 まず、A社は既存の生産管理システムの業務フローを確認した上で、諸々の問題点を洗い出すことから始めた。既存の生産管理システムの流れはごく一般的なものであり、自動車メーカーからの受注確定を受けて生産計画を立て、下請け部品業者へ発注し、生産を行うという業務フローである。

 各部門担当者に尋ねたところ、以下のような問題点があることが分かった。

  • 営業部門

 生産状況は在庫数のみでしか確認できないため、生産部門に口頭で聞くなどしてある程度勘と経験に基づいた納期回答をしなければならない。

  • 生産部門

 納期遅れを防ぐために常に在庫を多めに確保しており、余剰在庫が生じることがある。

  • 調達部門

 どの下請け部品業者からどれだけの部品を調達すれば良いか? を受注情報から容易に算出することができない。

 つまり、在庫数のみに依存した納期回答をしているため、回答精度が低くなって納期遅れが発生し、それを防ぐために余剰在庫を確保、今度はその余剰在庫を踏まえて納期回答するが、そこで納期遅れが生ずればさらに余剰在庫を増やすといった悪循環に陥りかけていたのである。A社では各部門のヒアリングを行った後、ERPベンダー担当者と一緒に既存業務フローを実際の現場でたどってみた。すると、さらに以下の問題があることが分かった。

同一の製品に対し部門によって異なるIDが振られているものが一部存在する。

 つまり、統一されたマスターデータは存在するものの、営業部門、生産部門、調達部門のぞれぞれで異なるIDが割り振られている製品が一部存在し、部門間でデータをやり取りする際にIDを変換する処理が行われていたことが判明したのである。

オススメ関連記事 -PR-

SAP改革をトップに説き伏せる方法

アメニティーズは長野県を中心に17店舗のパチンコ店を展開する。競合他社もあり楽観できない経営環境だった。遊技台はデジタル化が進む中で、個別の遊戯台に掛かるコストを低減し、利益を増やし、遊技台の「労働生産性」を高める工夫が必要だ。バラバラだった同社のITをSAPで最適化する取り組みを開始した。


至れり尽くせりのシステムを捨てた――TOMOEGAWAの勝算

TOMOEGAWAは日本における産業用特殊紙のパイオニア。最近では半導体関連製品など先端分野の材料も開発する。同社はSAP ERPにより、ビジネススピードを飛躍的に向上させたという。「至れり尽くせり」で「つぎはぎだらけ」だったシステムをどのように刷新したのか。


       1|2|3 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

注目のテーマ