中堅中小企業の経営基盤改革術

食の安全が叫ばれる中――食品製造業B社の改革例中堅中小企業の経営基盤改革術(1/3 ページ)

食品製造業における事例を取り上げる。登場するのは小規模な和洋菓子メーカーB社だ。食の安全が叫ばれ、食品業界に対する消費者の目が厳しい中、B社のERPを活用方法を見ていくことにしよう。

» 2008年07月25日 17時26分 公開
[岩上由高(ノークリサーチ),ITmedia]

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 今回取り上げる企業は、和洋菓子の製造および販売を手掛ける小規模食品製造業者のB社。自社で製造した和洋菓子を全国の菓子店に向けて出荷している。年商は20億円で、従業員数は100人。

ERP導入前にB社がおかれていた状況

 最近になり、食品を扱う事業者による不正が相次いでいる。日本の食の安全が危機に瀕している状況だ。不正な原材料の混入や消費切れ在庫の出荷は何があっても起きてはならない。B社も従業員の教育や確認体制の強化を徹底していたが、人手による管理には限界もある。トラブル発生をシステムで防止する仕組みが必要であるとB社の経営者は感じ始めていた。

 一方、和洋菓子店に対する自社商品販売にも多くの問題を抱えていた。自営の和洋菓子店は自店舗内で商品を製造するのが一般的である。だが近年の少量多品種のニーズに対応するため、自営の和洋菓子店が品ぞろえを補う目的でB社のようなメーカーに商品の発注をするケースも増えてきた。

 しかし、B社では多数の販売先に少量ずつ出荷する形態を想定しておらず、販売時の仕切りや出荷ケースごとに異なる個数調整を人手でカバーせざるを得なかった。受注量が増えるにつれ事務処理の負担が増大し、このままでは出荷に遅れが生じる恐れも出てきた。新鮮さが勝負である和洋菓子において、出荷の遅延は致命的である。販売や出荷をシステム化し、効率改善を図ることも重要な経営課題となってきていた。

 B社の課題を整理すると以下のようになる。

  • 課題1 原材料と商品をシステム的に関連付けて、問題があった際のトレーサビリティを可能にする必要がある
  • 課題2 製造工程において原材料投入ミスなどが発生しないようにシステム的な防止策を講じる必要がある
  • 課題3 自営菓子店舗への商品販売における販売管理や出荷管理の仕組みを確立する

必要がある

 上記の課題を踏まえ、B社ではERPの選定に入った。その際にB社がERPベンダーに対して対処を求めた重点ポイントは以下の点である。

ポイント1 双方向のトレーサビリティ

 自社の製品に品質上の問題が発生した際、その確認経路には大きく分けて二通りある。一つは原材料に何らかの問題があったことが発覚したケースである。この場合は問題のあった原材料を用いて製造された商品及びその出荷先をトレースする必要がある。

 もう一方は出荷後の商品に問題が発見されたケースである。この場合は該当商品と同じロットで製造された商品や用いられた原材料を特定し、出荷済みの他商品に対して必要な対策を講じることになる。この双方向のトレーサビリティを迅速かつ正確に実行できることが、品質危機管理における必須事項であるとB社は考えた。

ポイント2 人的ミスを防止できる製造工程管理

 製造工程において誤った原材料を投入してしまうというケアレスミスは常に起こりうる。原材料の仕入れ状況を正確に管理したとしても、投入段階でそのデータを従業員が目視するだけでは人的ミスを防止することはできない。B社としては従業員の注意力に依存するのではなく、システムとして製造工程の安全性を担保できる仕組みの構築を望んでいた。

ポイント3 自営菓子店と自社の受発注担当双方の負担を軽減する仕組み

 各菓子店舗へ出荷する商品には各店舗の仕切り額が設けられている。また出荷の単位は10個入りケースや20個入りケースなど商品や出荷先によってさまざまである。こうした多岐に渡る受注情報を管理するために、B社の受発注担当には大きな事務的負担が掛かっていた。

 翌日の製造計画を見積るためにB社は各店舗から当日の売上情報をFAXで送信してもらっていたが、毎日の売上伝票整理は各店舗にとって少なからぬ負担となっていた。つまり自社内と販売先店舗の双方の負担を同時に軽減できる販売管理システムの必要性を強く感じていた。

 こうしたB社の要件を受けて、ERPベンダーは食品製造業向けのERPパッケージを適用することにした。ERPベンダーから提案、構築されたシステムが上記の各ポイントに対してどのような解を与えたかを以下に列挙する。

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