クラウドコンピューティングに見るERPの将来像SaaSには限界あり(1/3 ページ)

パッケージアプリケーション全体に大きな影響を与えるトピックの中で特にこの2008年後半に大きな動きがあると予測されるのは「SaaS」だ。SaaSには限界もあるため、それをカバーするクラウドコンピューティングやPaaSにも注目が集まる。

» 2008年09月16日 08時00分 公開
[岩上由高(ノークリサーチ),ITmedia]

 最終回となる今回はERPの将来像についてベンダー側の動きも絡めながら考えていくことにする。ERPに限らず、今後パッケージアプリケーション全体に大きな影響を与えるトピックは幾つかある。その中でも特にこの2008年後半に大きな動きがあると予測されるのは、やはり「SaaS(サービスとしてのソフトウェア)」であろう。ただし、SaaSには限界もある。それをカバーするのがクラウドコンピューティングであり、PaaS(サービスとしてのプラットフォーム)である。

 SAPやOracleといった大手ERPベンダーに加え、米国ではWorkDayといった新興ベンダーも活躍している。ちなみにWorkDayはOracleに買収された旧PeopleSoftの創業者、Dave Duffield氏が立ち上げたベンチャー企業である。

SaaSとERPの関係

 日本のERPベンダーの動きはどうであろうか。欧米と同様にSaaSへ取り組むベンダーが登場してきている。国産の大手ERPパッケージベンダーは欧米とは異なり、自社で自らSaaSを提供するところは少なく、SaaSを提供するシステムインテグレーターなどに自社パッケージを提供するケースが比較的多い。自社で提供するSaaSへの取り組みに積極的なベンダーの多くは中小規模の独立系である。

 SaaS型ERPの提供に際しては「大手ハードウェアベンダーやキャリアが提供するSaaSプラットフォームを活用する」「自社で独自にSaaSプラットフォームを構築する」といった2通りのアプローチがある。

 前者の例としてはGCT研究所の「Just-iS(ジャスティス)」が挙げられる。KDDIが提供するSaaSプラットフォーム「Business Port」上で2008年秋に提供開始予定である。後者の例はクレオの「ZeeM」だ。

 SaaS運用環境の構築には多大のコストを要し、損益分岐点に達するまでは収益的に厳しい状態がしばらく続くため、新興ベンチャー企業の多くは通信キャリアなど大資本の企業が提供するSaaSプラットフォームを借りるケースが多くなるだろう。

基幹系データのセキュリティを懸念するユーザー

 一方でユーザー側の意識はどうなっているだろうか。ERPが取り扱う情報は財務会計データ、顧客データなど機密性の高いものが多いため、ユーザー側が自社外にデータを保管することに抵抗を示す可能性がある。ノークリサーチでは中堅、中小企業に対していかなる場合であっても自社外に置きたくないデータ種別について聞くアンケート調査を実施した。

いかなる場合においても社外には預けたくないデータ種別(複数回答)

 この結果によると、財務会計、顧客、受発注、給与などの各データに関しては社外に預けることへの抵抗感が強い。ERPを構成するモジュールに置き換えれば、財務会計、販売管理、購買管理、人事・給与といったものがSaaS化しにくいということになる。

 いずれもERPを構成する主要なモジュールである。単に現状のERPモジュールをオンラインで提供するだけでは、ユーザーのデータセキュリティに対する不安の方が勝ってしまう。パッケージと比較して劇的に安い利用料金を提供することも、ビジネス環境を考えるとなかなか難しいのが現実である。

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