セールスとマーケティングの考え方は正反対です。セールスは現在、マーケティングは未来を見るからです。しかし、目指すところは顧客への価値提供で一致しています。両面の能力を持つ人材はなかなかおらず、貴重です。
戦略の策定と実践は、成功するCRMの原点です。本連載では、ビジネスの現場で戦略を策定し、実施する場合に必要な考え方をご紹介しています。(本連載は「戦略プロフェッショナルの心得――ビジネスの現場で、理論だけの戦略が実行できない理由」からの抜粋です)
第1回のバリュープロポジション、第2回のキャズム、第3回の模倣戦略から脱却、第4回の価格戦略を考える際の落とし穴に続き、第5回目は、セールスとマーケティングの関係についてご紹介します。
素晴らしいマーケティング戦略を作り上げても、セールス(営業)活動に展開できなければ、意味がありません。マーケティング部門とセールス部門は、密接に協業して顧客に価値を届けることが重要です。両者は似て非なる部門であるために、時として、協業が進まない場合もあります。
例えば、立案した戦略をセールスの人たちに説明しても納得してもらえず、その結果、思った通りに戦略を展開できないという経験をしたマーケティング担当者や事業企画担当者は多いと思います。逆に、マーケティングの人たちが話す内容が漠然とし過ぎていて具体的ではなく、また将来の話も多いので、現在の自分のセールス活動にはあまり役立たないと感じているセールス担当者も多いと思います。
このようなことが起こる原因を考えるためには、マーケティング担当者と、セールス担当者の行動原理の違いを理解することが必要です。
最初に理解したいことは、マーケティングとセールスは役割が違うということです。
実際に顧客と接して、ビジネスにつなげるのがセールスの仕事です。セールスは次のような役割を担います
一方でマーケティングは、顧客に価値を届ける企業活動全般にかかわる仕事です。マーケティングは次のような役割を担います。
このような役割の違いがあるために、セールスとマーケティングの間で考え方に違いが生じてきます。
セールスにとっては、目の前にいる顧客の課題をどのように解決するかが最優先です。時間軸の中心は現在であり、セールスの目標は「現在価値最大化」です。例えばセールスは「具体的にこのようなことで困っているんだ」という顧客に対して、現実的で具体的な課題解決策をその場で提示することが求められています。現実の問題で困っている顧客に対して、将来的な抽象論を述べても、あまり意味はありません。
この結果、セールスの考え方は「現在価値最大化、具体的、即物的、現実的」になります。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.