第2回 個人の意思決定力をどう強化するか“「考える組織」への変革”を促すビジネスインテリジェンス(2/2 ページ)

» 2008年12月02日 07時00分 公開
[米野宏明(マイクロソフト),ITmedia]
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「仮説構築能力」は経験に依存する

 ではその仮説そのものはどうやって構築するのか。

 単刀直入に言えば、この部分はどうしても経験に依存してしまう。先の例をとると、ディスカウンターに対する対抗戦略には、非常に多くのパラメータ、すなわち選択の分岐点があるため、組み合わせは無数に存在する。しかし、もちろんすべての組み合わせが有効なわけではなく、この中から検証に値する組み合わせを適切に選別するためには、製品や顧客に対する経験が必要となる。

 今までは何が顧客のニーズとマッチしていたのか、競争者はなぜ価格競争を仕掛けてきたのか、業界はこの価格競争を促進する文化なのか、を知るには、経験的な知識によるところが大きい。これがBI利用を阻害する最大の要因である。

 先にも述べたように、実務的には棒グラフと折れ線グラフの使い方さえ分かっていれば、仮説検証は可能だ。少なくともこの2つのグラフの描き方は、私の場合は小学校で習っているし、Excelの解説本などにも必ず載っている。しかし、仮説がなければこれらのツールは役に立たない。グラフは比較をするためのものであり、何と何を比較すればよいのか分からない以上は、ただ漫然とデータを並べ替えてみたところで、そこから何かを発見することなどまず期待はできない。

 また、分析ツールのボタンを一発押すだけで自動的に分析してくれることもあり得ない。当たり前の話なのだが、企業によって製品、従業員、顧客そのほかの経営環境が異なる以上、戦略オプションは異なる。自動化できるということは、標準化できることを意味する。意思決定の標準化などできないし、もしできたとすれば人間の存在意義がないだろう。しかしこれがITの話になったとたんに、「高度なBIツール」や「プリセットされたBIツール」に対する過剰な期待が生まれるのは実に不思議な現象である。

 高度なBIツールを扱えるのは高度な仮説を持った人だけだし、プリセットされたBIツールでできるのはプリセットされた答えを出すことだけだ。これらのツールで問題の本質は一切解消されない。もちろん、出力したグラフの「美しさ」は意志決定の質とは何の関係もない。

 仮説構築力に必要な経験を補うBIには2つの方向性があると考えている。1つが伝統的なBI技術である「データマイニング」(経験上前述の「高度なBIツール」には含めていない)、もう1つが経験の共有をもたらす「コラボレーション環境」だ。

経験を補う「データマイニング」技術

 データマイニングは、膨大な量のデータの中から一定の法則性を導き出すための分析技術である。必ずと言ってよいほど使われる「週末のスーパーでビールと紙おむつが同時に売れる」という例があるが、これは「アソシエーション分析」あるいは「マーケットバスケット分析」などと呼ばれるデータマイニング技法で導き出すことができる。

 しかし、1つ注意が必要なのは、データマイニングはあくまで仮説を導き出すものであり、検証とセットになるべきものであるという点である。データマイニングではたいていの場合、分析するまでもなく当たり前の法則のみが算出されるだけで終わる。ごく稀に、新しい法則めいたものが見つかったとしても、その発生確率は、確信を持てるほど高くないのが普通である。データマイニングでは仮説のことをモデルと呼ぶが、モデルに新たなデータを何度も投入して確認、つまり実行と検証を何度も繰り返してトレーニング、すなわちモデルの精度を高めていくのだ。

Excelから直接データマイニングが行える無償アドインツール

 ただ、日常のビジネスシーンにおいては、そのような大量のデータを用意できるチャンスは少ないだろうし、モデルをトレーニングする余裕もないだろう。この場合、データマイニングによって導き出された粗い仮説を自分の経験を補う情報としてだけ捉えておき、そのあとはすぐにでもグラフ解析と実行に移ってはどうだろう。そう考えれば、データマイニングの精度そのものを気にする必要はあまりないだろうし、データ量もExcelシートに苦も無く入る程度で十分かもしれない。マイクロソフトでは、SQL Serverが標準搭載するデータマイニング アルゴリズムを利用できる無償のExcel用アドインツールを提供している。マイクロソフトのBIチーム ブログで使い方などの紹介をしているので、興味があれば参照いただきたい。

 ここまでは個人単独での意思決定力をいかに向上させようかという話であるが、先にも述べたように、コラボレーション環境の活用により、個人の意思決定力を強化し、組織全体での意思決定力の底上げも可能になる。その方法や事例、BIシステムがもたらすバリューチェーンについては次回以降紹介していきたい。

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