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» 2008年12月07日 02時50分 UPDATE

日曜日の歴史探検:Xの時代――宇宙を進むスペースプレーン

レーガン大統領時代のスターウォーズ計画。子供心にワクワクしたものですが、それらの技術はさまざまな形で具体化しています。今回は、スペースプレーンの現在と軌道力学での戦闘について考えてみます。

[前島梓,ITmedia]

 アルファベットの「X」――この文字を不思議なものに対してつけることが多いのを皆さんご存じかと思います。数学の世界では、デカルトの幾何学書に未知数として登場したのがその起源といわれていますが、こうした経緯ゆえか、Xという文字に何やら謎めいたものを感じるのは筆者だけではないでしょう。

Xプレーンは宇宙へ飛び立つ

X-1 ベル X-1。Xプレーンシリーズはここからはじまりました(写真出典:NASA)

 そんな不思議なXという文字ですが、米国でも「Xプレーン」という実験機・記録機シリーズが存在しています。世界で初めて水平飛行で音速を突破したロケット機もこのシリーズに属する「ベル X-1」ですし、有人航空機の世界最高速度(マッハ6.7)を記録したX-15などもそうです。実験機・記録機シリーズということで、それぞれ独特な特徴を持っています。同シリーズは現在もまだ続いており、公開されている最新のXプレーンは、かつてライト兄弟が考案した「たわみ翼」を進化させた形で搭載しているX-53です。

 今回取り上げるのはXプレーンの1つである「X-51」です。これを取り上げる理由は、X51で採用されているスクラムジェットが、宇宙航空機、すなわちスペースプレーンへとつながる技術として注目されているためです。もともとレーガン政権時代に開発が発表されたX-30でスクラムジェットの搭載が予定されていましたが、その後しばらくすると予算がカットされ、X-30の開発は中止されました。しかし、スクラムジェットの開発自体はその後も続いており、それがX-43、そしてX-51へと受け継がれています。

 皆さんも旅客機に搭載されている大きなジェットエンジンを見たことがあるかと思いますが、これは前方の大気を吸入し、エンジン内部で圧縮機やタービンを用いて圧縮した後、燃焼液体水素燃料と混合して燃焼させ、後方に高圧の燃焼ガスを噴射することで推力を得ようとするものです。

スクラムジェット スクラムジェットの構造。左(前方)から空気が超音速で吸入され、途中で燃焼させ後方に高圧の燃焼ガスを噴射します。構造は単純ですが、超音速環境下での流体力学などが明らかになるにつれエンジンも進化しています(写真出典:Wikipedia)

 一方、圧縮機やタービンを用いるのではなく、空気の勢いそのものを利用して圧縮するのがラムジェットエンジンです。亜音速の空気流を生み出すような構造となっており、飛行速度が速くなっていくと、空気そのものの力で空気を圧縮させることができることを利用しています。狭い通路を空気が通過するので、速度が上がれば上がるほど空気の温度や圧力が高まり、かつ空気の流れる速度は減じていくことになりますが、これを超音速の空気流で推力が得られるように進化したのがスクラムジェットです(説明のために簡略化していますが、実際はもう少し複雑です)。スクラムジェットとは、英字で表記するとSupersonic Combustion Ramjetなのですが、超音速燃焼を可能にしたラムジェットがスクラムジェットと考えておけばよいでしょう。

 当然、空気そのものの力で空気が圧縮できる速度、つまり超音速以上でないとこのエンジンは機能しませんので、その速度(マッハ4〜6)に達するまでの推進力を別の方法で得る必要があります。とはいえ、理論上はマッハ15〜17程度まで出るとされており、かつ、大気中の酸素を利用するため、ロケットほど大量の液体酸素や酸化剤を必要としないというメリットがあります。

 現在、X-51は2009年に初飛行が予定されており、その後マッハ7での飛行を行うとされています。ちなみに、日本でも宇宙航空研究開発機構(JAXA)が、2006年3月にスクラムジェット燃焼器飛行実験を実施していますが、残念ながら失敗に終わっています。

宇宙空間でドッグファイトは起こらない?

 X-51の延長線上にはスペースプレーンがあると考えられます。重力で地球に落ちてこない速度、つまり第一宇宙速度(地球周回軌道速度)に達すれば地球周回軌道に乗るのですが、これが軍事戦略上重要な意味を持ちます。ロケットしか無理だと考えられていたことがスペースプレーンで可能となれば、軍事戦略が大きく変化するからです。実際にはスクラムジェットでは第一宇宙速度に達しないため、結局はロケットエンジンも使うことになるでしょうが、ロケットと比べればコストが下がると期待されています。

 仮にスペースプレーンが実用化されたとして、軍事的な側面を考えると幾つか面白いことが予想されます。例えば、宇宙空間の戦闘は従来のものとはまったくの別物です。重力から解放されるため、それまでの空気力学の戦闘から軌道力学での戦闘へと変わるためです。急旋回などいわゆるドッグファイトで用いられるような技術は簡単に行えなくなります(速度が第一宇宙速度以下になれば、大気との摩擦抵抗で急激に高度を下げ、やがては大気中で燃え尽きてしまうため、常に最低限の速度を維持する必要があるため)。

COIL 機体の前方に搭載されているのがCOIL。非常に巨大な装置ですので、ジャンボジェットのような大型機に搭載されます。不可視波長のレーザーなので目には映らない上、光の速度で攻撃されるので、従来の戦闘が大きく変化すると考えられています(写真出典:MDA)

 当然、これまでの空中戦の技術は役に立たなくなります。真空の宇宙空間では通常のミサイルなどは発射できませんし、ミサイルを発射することで、その反動で軌道を外れるリスクも存在します。結果、ABL(Airborne Laser)のようなビーム兵器が求められることになると考えられています。

 現在開発が進んでいるABLは、弾道ミサイル迎撃用としてジャンボジェット機などに酸素ヨウ素化学レーザー(Chemical oxygen iodine laser:COIL)を搭載したもので、すでに地上発射実験は成功、ボーイングとノースロップ・グラマンは2009年にも空中発射試験を行う予定となっています。将来的には弾道ミサイル迎撃目的だけでなく戦闘機に対しての攻撃にも用いられることが想定されており、やがてはスペースプレーンにも搭載されることでしょう。

 スペースプレーンの開発は一見順調に進んでいるようにも見えますが、実際にはそんなに簡単な話ではありません。1986年には当時の米国大統領であるレーガン大統領が「スペースプレーンによって極東とアメリカ合衆国本土を2時間で結ぶ」と発表してからすでに20年以上が経過していますが、現在でも上述した通りの状況なわけです。たまにニュースとなるサブオービタル(準軌道)の宇宙旅行と比べると、オービタルの宇宙旅行はまだまだ先の話になりそうですが、軍事の世界では宇宙を見据えた開発がこの瞬間も進んでいるのです。

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