news002.jpg

日曜日の歴史探検:クレイトロニクスは仮想現実を超越するか

電話やファクシミリ、テレビといった発明が人類のコミュニケーションを進歩させてきましたが、ではその次は? 今回は、仮想現実や拡張現実(AR)といった技術のさらに先を行くクレイトロニクスを紹介します。


 音声や画像を電気信号として伝送する技術、つまり、電話やファクシミリ、テレビといった発明が人類のコミュニケーションを大きく進歩させたのはあらためて振り返るまでもありません。では、こうしたコミュニケーション手法の次にはどういったものがあり得るのでしょうか? 今回は、新時代のコミュニケーション基盤となるかもしれないクレイトロニクス(Claytronics)について取り上げます。

クレイトロニクスは「粘土」のごとし

 皆さんは、携帯電話で話をしていて、「今どんな表情で話しているんだろう」と感じたり、テレビを見ていて、「その場の空気を味わいたいなぁ」などと思ったことはないでしょうか。電話やファクシミリ、テレビといった発明は、わたしたちの生活を大きく変えましたが、一方で、電気信号として伝送されてくる情報に物足りなさを感じつつあるのが現代なのではないでしょうか。

 筆者は子どものころ、近所にあった公園の砂場でお城を作った覚えがありますが、もし砂の一粒一粒が超小型コンピュータだったら……と考え、実際に研究開発を行っているチームが存在します。カーネギーメロン大学とインテルの共同開発による物体の3次元コピーを合成する技術「Dynamic Physical Rendering」(DPR)の研究がそれです。

 米国国防総省高等研究計画局(DARPA)も注目するこの研究。基礎をなしているのはナノスケールの超小型コンピュータ。「クレイトロニクスの原子」を意味する「catom」(キャトム)と名づけられたこのナノマシンには、CPUをはじめとするコンピュータの基本要素が搭載されているだけでなく、互いに結合するための仕組みが搭載されています。これにより、プログラムやコマンドによってcatom同士の位置関係を変化させたり、任意の3D形状を維持したり、色を変えたりといったことを可能にしようとしているのです。先ほど「砂」という表現を用いましたが、どちらかといえば、“粘土”(クレイ)の可塑性も併せ持つ、電子的な粘土を実現しようというものです。イメージをつかみやすくするために、クレイトロニクスを紹介したYouTubeの動画を示しておきます。

catom catomのプロトタイプ。まだまだ大型ですが、これからますます小型化していくことでしょう。小型化は日本のお家芸ですから、何か共同で進められればよいのですが……(画像:Intel)

 自由自在に形を変えるクレイトロニクスは、3Dのコピーを実現するものであると同時に、非常に高い汎用性を持つ可能性を秘めています。例えば、catomで構成されたいすが、コマンド1つでテーブルへと形状を変えたり、電話が掛かってきたときに、目の前にその相手をクレイトロニクスで生成すれば、まるで隣にいるように会話できたりします(リアルタイムでそうした形状の変化を伝える必要があると処理が大変かもしれませんが)。

 想像は膨らみますが、現実の話も必要でしょう。catom同士の結合方法1つみても、磁力や静電気を利用したものが想定されているようですが、まだ基礎研究レベルの印象を受けます。また、複数のcatomを1つの物体として連携させるには、プログラミングが最大の鍵となってくるでしょう。

 それ以前に、ナノスケールの超小型コンピュータが作成可能かどうかも注目です。Intelのような半導体メーカーの巨人がクレイトロニクスの研究開発に共同で取り組んでいるのは、クレイトロニクスの成功の鍵が、極めて小さな物体にコンピュータの機能を搭載させることにあるからです。半導体メーカーの研究開発としては挑戦しがいのあるものですが、数年前にプロトタイプとして発表されたcatomは、直径44ミリほどある筒状のユニットが2次元平面上で結合する程度のものでした。

 Dynamic Physical Renderingでは、最終的に直径300ミクロンのcatomを組み合わせ、3次元空間上でさまざまな形状を作成可能にすることを1つのマイルストーンとしていますが、昨年開催されたIntel Developer Forum(IDF)でも大きく前進した様子は見られなかったので、実現には少なく見積もっても10年は掛かってしまいそうです。しかし、クレイトロニクスが実現すれば、わたしたちのコミュニケーションが新たな時代を迎えることは想像に難くありません。仮想現実や拡張現実(AR)の先にあるものをクレイトロニクスは見せてくれているのかもしれません。

架空の姉 実際に触れることすらできてしまうクレイトロニクスは、テレビの登場以上の衝撃をもってわたしたちの前に現れるのかもしれません(イラスト:架空の姉

お知らせ:毎週ご愛読いただきました本連載ですが、次回以降は不定期連載とさせていただきます。よりパワーアップした内容でお届けすることをお約束しますので、今後ともよろしくお願いいたします。


最先端技術や歴史に隠れたなぞをひもとくことで、知的好奇心を刺激する「日曜日の歴史探検」バックナンバーはこちらから


Copyright© 2010 ITmedia, Inc. All Rights Reserved.




キャリアアップ



エンタープライズ・ピックアップ

news004.jpg 世界で勝つ 強い日本企業のつくり方:利用契約の検討――グローバルクラウドで失敗しないために(前編)
2010年以降、クラウドサービスの利用がさらに加速する。サービスを利用する企業はプロバイダーのデータセンターに預けた自社情報を保護するために、法的な要素を理解しておかなければならない。企業が注意を払うべき法的な検討事項を整理する。

news001.jpg IT投資の新方程式:「Twitter使ってます」――現役MS社員が“社員力”を語る(前編)
マイクロソフトが掲げるプロモーションメッセージ「社員にチカラを。ITで企業力を。(以下、BIEB)」からは、ITで社員の生産性を向上することが業績の拡大につながる、といったニュアンスを感じる。そこで気になるのが「じゃあ、マイクロソフトの社員自身はどうなのよ?」ということ。3人の現役MS社員により実態が明らかになる……?

news010.jpg 産業構造を変えるか:「住宅クラウド」の衝撃
住宅都市工学研究所が進める「住宅クラウド」は、クラウドが企業のIT領域にとどまらず、ビジネスのやり方自体を変える可能性を示している。

news010.jpg オルタナティブな生き方 栗原進さん:ネットでリアルを楽しくしたい
SE出身の企業広報マンでありながら、趣味は落語で憧れの人はインディ・ジョーンズとアナログ全開の栗原さんに、ブログを書く理由やネットからはじまるコミュニケーションについて伺った。

news001.jpg 最強最速アルゴリズマー養成講座:トップクラスだけが知る「このアルゴリズムがすごい」――「探索」基礎最速マスター
プログラミングにおける重要な概念である「探索」を最速でマスターするために、今回は少し応用となる探索手法などを紹介しながら、その実践力を育成します。問題をグラフとして表現し、効率よく探索する方法をぜひ日常に生かしてみましょう。