インタビュー
» 2009年10月23日 08時00分 UPDATE

ミラクル・リナックスは終わってしまったのか? (1/2)

「今年の下期から来年の上期が勝負だと思っている」――“第2の創業”から1年。かつてはLinuxディストリビューターとして一時代を築いたミラクル・リナックスはどこへ向かっていくのか。同社代表取締役社長最高経営責任者の児玉崇氏に聞いた。

[西尾泰三,ITmedia]

 Red HatNovellターボリナックス、そしてミラクル・リナックス――ほんの数年前であれば、これらのLinuxディストリビューターはIT業界の一大勢力として位置づけられていた。しかし、21世紀に入って10年がたとうとしている現在、その勢力図は大きく変化している。

 その一角であったターボリナックスが“売る”から“使う”事業モデルに移行して、生まれ変わろうとしていることは、「ターボリナックスは終わってしまったのか?」ですでに報じたとおり。かつては一大勢力であったLinuxディストリビューターで、今日“勝ち組”となったのはRed Hatだけ。ほかのLinuxディストリビューターは新たなビジネスモデルの導入を余儀なくされている。

 しかし予想に反して、ミラクル・リナックス同社代表取締役社長最高経営責任者である児玉崇氏の表情は明るかった。「今年の下期から来年の上期が勝負だと思っている」――自信のある笑みを浮かべる同社は、今後のビジネスをどのように展開しようとしているのか。本稿では、ミラクル・リナックスが狙う事業ドメインの変化について、児玉氏の言葉を交えながら紹介する。

児玉崇氏 ミラクル・リナックス同社代表取締役社長最高経営責任者、児玉崇氏

1分で分かるミラクル・リナックスのこれまで

 ご存じの方も多いだろうが、ミラクル・リナックスといえば、もともとは“Oracle Databaseに特化したLinuxディストリビューション”を提供する企業だった。Oracleを使うならOSにMIRACLE LINUXを使うのがもっとも楽である、という触れ込みで販売攻勢をかけたのがミラクル・リナックスである。当時、市場では企業でLinuxの導入が進み始めており、Oracle DatabaseのプラットフォームにLinuxを選択する際の選択肢としては一定のポジションを築くことに成功した。国内に開発チームを持つ強みを生かし、システムの障害発生時に、その障害がLinuxなのかDBなのかといった部分を切り分け、必要であればカーネルパッチも提供していくといった“小回りの利く”体制は企業のニーズとよく合致し、業務アプリケーションのシステムに強いベンダーとしての立ち位置を確立していった。何より、Oracleの子会社であるという事実が、市場の信頼を勝ち取ったといってもよい。

 しかし、そのOracleは2003年の時点で、Red Hatが提供するRed Hat Enterprise Linux(RHEL)3に最適化することを発表。“Oracle Databaseに特化したLinuxディストリビューション”としてのMIRACLE LINUXは肩すかしを食った格好となった。同社はこれまで培った技術力の“貯金”を生かし、当時はまだ洗練されていなかったSambaなどのパッケージをいち早くバンドル、日本語周りのサポートなどで技術力を示すようになる。ディストリビューションとしては、“Oracle”専用という位置づけから、汎用的な利用用途を狙った進化といえる。

 しかし、コード体系の整理やi18n化がすぐに進展したことで、同社の技術力を示す指標の1つであった日本語周りの技術に関する先行者利益はすぐに吹き飛んでいった。また、RHELクローンであるCentOSなどのLinuxディストリビューションが登場し、Linuxディストリビューションに別の付加価値を求められるようになった。

 ここで、同社は視線をアジアに向ける。2004年になると、Linuxの開発をアジア共通の基盤の上で行うことで、Red HatやSUSE(後にNovell)が米国と欧州でそうしたように、地政学的な支持基盤を得ようとしたのである。日中韓の枠組みで開発されるそのディストリビューションは「Asianux」と名づけられ、ミラクル・リナックスのほか、中国のRed Flagと韓国のハーンソフトが開発リソースを持ち寄ることになった(日中韓が進める『Asianux』が狙う地政学的な支持基盤とは? 参照)。その後2006年4月にAsianux Corprationを設立。2007年8月にはベトナムのVietSoftwareが、2008年12月にはタイのWTECが参加し、緩やかではあるがアジアの中でのポジションを確立していくことに成功している。

 一方、OSレベルにも積極的に影響力を行使していったOracleは、自社内で十分な開発リソースを確保し、主要な言語に対応した状態で製品を出荷できるまでになった。そしてその後、Oracleは自社でRed Hat OSのサポートまで行うようになり、“Oracle Databaseに特化したLinuxディストリビューション”としてのMIRACLE LINUXはほとんど意味を持たなくなった。

 従って、Oracleの子会社ではあるが、ある時期以降はOracleの支援をほとんどあてにできないLinuxディストリビューターとして、ミラクル・リナックスはほかの数多くのLinuxディストリビューターとの戦いを続けてきたといえる。Oracleの子会社ということが、市場の信頼を勝ち取ったといってもよい時代からほんの数年しかたっていことを考えると、皮肉ともいえる。

第2の創業を経て何が変わるのか

 そんな状況が続いていたさなか、突然の人事が発表された。それは、これまで代表取締役社長を務めてきた佐藤武氏が取締役会長に就任。営業や戦略推進などの責任者を務めていた児玉氏が新たに代表取締役社長最高経営責任者に就任というものだった。

 ここで特筆すべきは、「第2の創業」という言葉を確信犯的に用いた点だ(エンジニアの楽園を目指す新生ミラクル参照)。当時まだ40歳の児玉氏は、あえてこの言葉を用いることで、これまでのビジネスから転換を図ろうという強い決意を打ち出したのだ。

 「一般企業向けのIAサーバはRed Hat。Red Hatが知的財産(IP)がらみの話でつまずいたりしない限り、そこを崩すのは正直不可能だと思う。そこをメインに投資をし続けるのは厳しい」と児玉氏。これまでなら認めることのできなかった部分を冷静に分析し、同社のビジネスの現状を語る。

 「当社の売り上げは、大きく分けるとライセンスとサポート。一般企業向けIAサーバのライセンスは減ってきており、アプライアンスとしてのライセンスがそれを補ってフラットに推移している。一方、テレコムなどの通信系に代表されるように、特定の顧客に対するサポートの需要が存在しており、サポートは上り基調」(児玉氏)

 全体からするとビジネスを維持しているともとれるが、児玉氏はここ数年の業界の動きを、「システムインテグレーターが案外Linuxを使えるようになっていきたという印象。わたしの感覚では、もう少しWindows系のシステムインテグレーターがLinuxの方に流れてくるかと思っていたが、それは期待したほどではなかった。『やっている人は知っている。Windowsしか知らない人はそこから出てこない』といった状況」と語り、システムインテグレーターの二極化が進んでいる現状を説く。

 一般に、システムインテグレーターは自社が得意なものを提案するのが定石だ。ユーザーがLinux/OSSを色眼鏡でみなくなったということは、システムインテグレーターの提案がよりシビアにみられるということでもある。ここで、Windows系のソリューションが得意なシステムインテグレーターがあえてLinux系のソリューションを積極的に展開しても、にわかな技術力では受注につながらない。当然得意なソリューションを可能な限り安く提案するという流れが続くことになり、Linux系のソリューションに対するシステムインテグレーターのコミットが進まなかった。また、「企業向けの一般IAサーバに限ってみれば、すでにOSの話は話題にならない」と児玉氏は話す。OSの話をするのは、いわゆるアプライアンス系の分野だけになりつつあるという。

 そこで児玉氏はこの1年、「さまざまなことを試した」という。そうしたものの中から少しずつ立ち上がりつつあるという印象を持っていると話し、新しいビジネスの芽を育てていることを明かす。

 特に、「Windowsの上でOSSを使う」というユースケースに賭けている。OSを問わないマルチプラットフォームのアプリケーションを展開することで、Windowsに閉じている層を開拓しようと考えているのだ。直近の同社の取り組みでいえば、オープンソースの統合監視ソフトウェアである「ZABBIX」にそうした考えをくみ取ることができる。システムの統合監視を行うこのOSSは、クライアントがWindowsであっても監視対象にできる。つまり、Windowsに閉じていた環境をアプリケーション層からこじ開けようとしているのだ。昨今はやりの仮想化技術などについても、むしろその運用をどうするかを考えるべきと、アプリケーションレイヤーでの勝負に“当たり”を見いだしつつある。

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